デジタル化が創出する価値は実質国内総生産(GDP)の8%に相当する――野村マネジメント・スクールで上級研究員を務める森健氏は5月28日、デジタル技術の発展に伴い今までになかった様々な形態のサービスが誕生し、GDPという1つの経済指標だけでは測りきれない価値が増幅していると語った。
長期的にみると日本ではGDP成長率の低迷が続いており、労働賃金の伸びも止まっている状況だ。それにもかかわらず、生活レベルが向上したと感じる人の割合は年々増加傾向にある。
この要因にはITの活用度合いが関係しているという。
例えば、地図や天気予報、音楽配信サービスなど、デジタル化が進んだことでネット上には多くの無料のサービスが登場した。
また、音楽や動画などのコンテンツ複製コストが低下したほか、ネットを介し販売者と購入者が直接取り引きすることで仲介料を削減できるようになるなど、同じ品質のモノやサービスでも今の消費者はより安値で手に入れることが可能になった。
「このようなインターネット上のサービスをうまく活用できる人ほど、生活が以前より便利・豊かになったと感じる人が多い」と、森氏は言う。
日本では2010年以降、上記のようなデジタルサービスから得られる消費者余剰(モノ・サービスの価格と消費者が最大支払ってもよいと考える価格『支払意思額』の差分)の拡大が続いている。
試算した結果によると2015年時点で消費者余剰はGDPの約8%に相当するまでに拡大した。
この数値は現在のGDPには含まれていないが、今後はこのような新しく創出された価値も考慮していくべきだという。
また、デジタル化が進み消費者余剰だけが拡大し続けると生産者余剰(生産者の利潤)を圧迫しかねないとし「企業は消費者の支払意思額を増大させる必要がある」と、消費者余剰拡大傾向には副作用もある点を指摘した。
デジタル化の発展によって生まれた代表的なものの1つにはシェアリング・エコノミーがある。森氏はこのシェアリング・エコノミーが既存経済に及ぼす影響も大きいとみる。
日本人のシェアリングやレンタルに対する心理的抵抗感も低下していることから、今後も日本でシェアリング・エコノミーは拡大する見通しだ。
ただ、既存のサービスを展開する企業に与える損失も看過できない。民泊サービスを展開する米Airbnbの試算では、同社のサービスが米ニューヨークのホテル関連産業・経済にもたらす損失額だけで21億ドルに上るという結果だった。
ITを駆使したサービスは利用者に高い満足感を与えてくれるようだが、それらのサービスの急速な普及が既存経済に与えるマイナス点にも向き合う必要があるとした。
デジタル技術を活用して差異を発見・活用・創出し、利潤を獲得することで資本の永続的な蓄積を追及するシステムを”デジタル資本主義”と森氏は定義する。現代日本の約1割はデジタル資本主義に移行しているという。
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