モータースポーツにおいて、1つのカテゴリーに自動車メーカーが参戦したとしても2〜4社というケースがほとんどだ。F1であっても、自己資金でレースに参戦する「ワークスチーム」の体制を敷いているのはFerrari(フェラーリ)、Mercedes-benz(メルセデス・ベンツ、以下メルセデス)、仏Renault(以下、ルノー)、本田技研工業(ホンダ)の4社のみだ。
ところがフォーミュラEは、シーズン6(2019-2020)からAudi(アウディ)、BMW、Jaguar(ジャガー)、メルセデス、Porsche(ポルシェ)、日本勢からは日産自動車と、最低でもこれら6社の参戦が決まった。筆者はモータースポーツファンとしても長年業界を見続けているが、ワークスチームが6社も参戦するカテゴリーは聞いたことがない。特に、メルセデス、BMW、アウディという「ドイツ御三家」がそろって参戦するという事実は、今後の自動車業界において、EVがいかに重要かを如実に表している。
また、「EV化時代」の到来は、来シーズンの開幕戦がサウジアラビアの首都リヤドで開かれることにも象徴される。石油を初めとした地下資源によって国家収入を得てきたサウジが、EVのレースを開催するという、ある種の自分の首を絞めかねないことをするからだ。
「石油だけではなく、EVを含めた次世代モビリティーに軸足を移すためにサウジは新たなドアを開けた。勇気ある決断をしたのだ」。こう答えるのは日産でモータースポーツの責任者であるグローバル・モータースポーツ・ディレクターを務めるマイケル・カルカモ氏だ。
日産がフォーミュラEに参戦する理由を広報に尋ねると、明確に「ブランディングのため」だと答えた。独Volkswagen(フォルクスワーゲン)の排ガス不正問題、いわゆる「ディーゼルゲート」によって、ドイツメーカーは一気に苦境にさらされた。ハイブリッド車の開発においてもトヨタ自動車に水をあけられ、その差を埋めるのは容易ではない。
他方、世界最大の自動車市場である中国も、内燃機関やハイブリッド車の開発では他国に追い付けない。そのため、コモディティ化しやすく技術的にも他国を凌駕(りょうが)できる可能性が高いEVを、国策として普及させようとしている。
例えばフォルクスワーゲンは、売上の約4割を中国が占めている。25年までに約100億ユーロ(約1兆3000億円)を中国市場に投資すると発表しているほど中国が重要な市場なのだ。中国に訪れたことのある人なら分かると思うが、ひと昔前の中国のタクシーはそれこそフォルクスワーゲン車ばかりだった。
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