ドイツメーカーにとっては、EV化を推進することができれば、日本に押されているエコカー市場においても、オセロの白と黒をひっくり返すように、その立場を逆転できる。EVの主導権を握るという意味で、中国政府とドイツは完全に利害が一致しているのだ。
筆者は中華圏でのビジネスをする中で、知的財産に関する仕事をしたことがある。例えば香港映画やハリウッド映画においても、中国人俳優の起用や、中国に配慮したストーリーが作られるケースは多い。中国では、1年間に上映可能な外国映画の本数が決まっているため、その枠の中に何が何でも入り込みたい。だから製作側が「忖度」するのだ。
仮にハリウッド、欧州、日本の3市場でヒットしなかったとしても、中国で当てることができれば、映画製作費は容易に回収できるという。自動車産業と映画産業は似て非なるものではあるものの、中国市場の大きさはご理解いただけるだろう。もし中国に複雑な感情を持っていたとしても、企業が利益の追求を目的とする以上、経営者は中国市場を無視することは不可能なのだ。中国を無視するのは利益を最大化する努力を怠っているに等しい。
この通り、自動車業界にとって中国は最重要市場であるものの、フォーミュラEは、現在は中国本土においては開催されていない。そのため、フォーミュラEで勝てたとしても、まだブランド向上の効果は薄い。将来のEVの主戦場は中国になる可能性が高い。だが今は欧州の人々に照準を絞り、ブランディングをしている段階だ。
耐久レースの王者であるポルシェがフォーミュラEに参戦するのも、欧州の人々にアピールしたいからだ。ポルシェは「Porsche Mission E」というEVの発売も控えている。「メルセデスがドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)を去って、フォーミュラEに参戦することにも驚きました」と語るのは、日本を代表するモータースポーツ・ジャーナリストの赤井邦彦氏だ。「メルセデスは、他社が出ているから自社も参戦せざるを得ないという事情もあるのでしょう」とも語り、欧州のメーカーにとって、EV対応への乗り遅れが許されない状況であることを示唆する。
一方、ホンダの不参加について、「F1への参戦だけで手いっぱいだから、フォーミュラEには参戦できないのか?」と聞くと「その通りです」と答えた。ホンダはF1参戦4年目になるも、期待されていた大きな結果を出せずに苦戦が続いている。優秀な人材を、F1とフォーミュラEに分散させるわけにはいかないのだろう。
トヨタ不参戦の理由を聞くと、「6月に実施されるル・マン24時間レースに勝つことが先決だと考えているからです」と答える。「数年後には耐久レースのレギュレーションが変わり、少なくとも見た目は市販車が走るようなレースになる方向です。トヨタとしてはフォーミュラEよりも、耐久レースに参戦し続ける方が、戦略上は得だと考えているのでしょう」と推測した。
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