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56歳で早期退職 元大手ITエンジニアが「介護タクシー」続けるワケ連載 熱きシニアたちの「転機」(2/5 ページ)

» 2018年06月13日 09時00分 公開
[猪瀬聖ITmedia]

ボランティア参加で見つけた「天職」

 50歳の時、シニア向けのボランティア団体に参加。そこで介護タクシーという仕事を知る。車が大好きだった荒木さんは、「これだ」と直感した。子供の独立を待って56歳で早期退職。タクシーの運転に必要な第二種運転免許や、介護ヘルパーの資格をとるなど入念に準備を進め、58歳の時に満を持して開業。想定通りの第2の人生の船出だった。

phot 今年70歳になる荒木正人さん

 ところがしばらくして、ビジネスにはつきものの想定外の事態が、次々と起きる。最初は、荒木さんいわく「バブルが押し寄せた」

 年金をもらいながら好きな車の運転をして小遣いを稼ぐ。これが当初の構想だった。しかし、収入を安定させようと、透析外来のある病院と患者を送迎する契約を結んだのを機に、急に忙しくなる。1人ではとても対応しきれなくなり、社員を募集。車両も4台に増やした。もうかると欲が出るのが人情。運転手をさらに増やし、病院で運転代行をするサービスを始めた。法人化したのも、このころだった。「事務所でも借りようかと思ったほどもうかった」と荒木さんは振り返る。

 だが、バブルはしょせん長続きしなかった。病院側が勝手に運転手を引き抜くなどしたため、温厚な荒木さんも憤慨して契約を解消。覚悟はしていたが、最大の顧客を失い売り上げは一気に減った。

 相次ぐ新規参入も想定外だった。杉並区で事業を始めた12年前は、同区のあっせん団体に登録している介護タクシー事業者は20社あまりだった。それが今は、荒木さんによれば、70数社と約3倍。世田谷区など周辺の市区も同じような状況という。新規参入者の多くは、会社を定年退職したり早期退職したりしたシニア世代。つまり、荒木さんと同じような第2の人生を、夢見た人たちだ。

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