え!? これクラウンだよな?池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2018年06月25日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]
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ライトウェイトスポーツになったクラウン

 次に乗り換えたのは2.0ターボである。正直な話、ダウンサイジングターボに関してはあまり良い印象はない。大排気量エンジンのエミュレーションとして低い回転数だけ使うなら良いかもしれないが、往々にして上がだらしない。それならやはり大排気量が本物だろうと思う。その評価そのものは変わらないが、今回のクラウンのスポーツセダン専用の使い方はちょっと面白かった。

 2.5と3.5はハイブリッドで鼻先が重い。そこにとにかく軽いユニットとして2.0ターボを当て込んだ。下のトルクで1勝、上の伸び感で1敗、鼻の軽さで1勝という具合で2勝1敗。ただしそれが評価できるのは、今回のクラウンの中で最もスポーティなハンドリングに躾けるという明確な意図があってのものだ。やはり総合的には2.5ハイブリッドがセダンとして優れている。それは先に述べたタイヤのひと転がり目の正確なトルクデリバリーなどを見ても明らかだからだ。

 ただ、運動性能に特化したスポーツセダンとしてみると2.0ターボは面白い。高いシャシー性能と軽いフロントを生かした自由度の高いハンドリングでスポーツカーのように走れる。主査によれば、これは今までクラウンに見向きもしなかった客層を取り込むための飛び道具と考えているグレードだという。

クラウンの特徴を残しながら質感を追求したインパネ。シフトレバーの左に見える2つの円はエレベーター式のドリンクホルダー クラウンの特徴を残しながら質感を追求したインパネ。シフトレバーの左に見える2つの円はエレベーター式のドリンクホルダー

 最後に3.5リッターハイブリッド。トヨタがマルチステージハイブリッドシステムと呼ぶ10段変速を模した動きをするパワートレーンだが、まだ熟成が不足している。本来2.5以上の豊かな低速トルクがあるはずだが、動き出しから唐突感が消せていない。肝心のコーナリングでも、ブレーキで鼻を押さえつけてターンインした後、スロットルをパーシャルにして平行ロールに持ち込みたいだけなのに勝手にシフトダウン動作をする。その結果、フロント荷重が抜けてアンダーステアに移行する。ドライバーはもう一度ターンインからやり直さなくてはならない。どうやらアップダウンのあるコースでは登降坂制御が介入して強制的にシフトダウンするらしい。

 全体にまだ荒々しさが残っており、洗練度が低い。本来マジェスタの後継となるべきグレードだけに実力不足を感じた。

225/45R18と215/55R17。高いグリップを求めるなら18インチだが、17インチのヨコハマ・ブルーアースの穏やかで連続性の高い身ごなしもかなり心地よい 225/45R18と215/55R17。高いグリップを求めるなら18インチだが、17インチのヨコハマ・ブルーアースの穏やかで連続性の高い身ごなしもかなり心地よい

 ひとまずクローズドコースでしごいたクラウンの実力評価は以上である。実用セダンとしての総合的な評価は改めて公道で試乗できる機会があるそうなので、そこでもう一度確認したい。

 限られた状況、それは言わばサーキットのようなコースでみた新型クラウン、そしてTNGAのFR専用シャシーの実力はトヨタの言う通り、世界水準になっていると言えるだろう。トヨタの2大名跡であるクラウンとカローラが相次いで、印象を刷新するほど素晴らしい変貌を遂げた。クラウンはドメスティックカーだが、同じシャシーがレクサスに導入される。これらはやがて世界におけるトヨタの評価を大きく書き換えることになるだろう。

 何しろ豊田章男社長自らが、2.5ハイブリッドAWDに試乗して「え!? これクラウンだよな? 俺のラリーカーよりこっちの方が良いや」と言ったというくらいだから。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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