え!? これクラウンだよな?池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2018年06月25日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

圧倒的な接地感と濃厚なステアフィール

 さて、肝心の走りだ。今回の試乗ではクローズドコースの山岳路が用意された。それはトヨタの自信の表れだろう。着座するとシートがだいぶ良くなっている。主査は「目の位置を動かさない」ことに留意したと言うが、実際走ってみてそういうものになっていた。

 まずは2.5リッターハイブリッドAWDである。タイヤのひと転がり目からトルクが意図通りに綺麗にかけられる。走行中のきめ細かい加減速の自由度も十分にあるように感じた。ただし本当は、前走車の意図しない加減速に追従するようなモードで走ってみないと断言はできない。自分で設定した加減速よりそういうモードの方が複雑だからだ。そのあたりの評価は後日公道での試乗会があるとのことなので、そこで再度確認したい。

サイクルスポーツセンターの5キロコースで行われた試乗のスタート風景 サイクルスポーツセンターの5キロコースで行われた試乗のスタート風景

 走り出してすぐに感じたのは4輪の圧倒的な接地感だった。失礼ながらトヨタとは思えない。まっすぐ走っているだけで鮮やかに感じるほど接地感は優れており、またフロントタイヤからの情報のフィードバックも豊かである。後に主査に確認したところ、ステアリングシャフトの途中に設けるゴムカップリングを廃止して直結したのだという。これは前輪が路面の不整などを受けたとき、嫌な振動がステアリングに戻ることを防止するものだ。これを取っ払えばそれはダイレクトになるだろう。

 しかし、ゴムカップリングは要らないのに付いていた部品ではない。ちゃんと振動吸収という機能があった。それをなくしても振動が入ってこないのはどういうことかと聞けば、フロントの転舵軸(キングピン軸)の延長とタイヤの接地点の距離、つまりキングピン・オフセットを減らしたのだという。

 転舵軸と接地点の関係は、風見鶏の軸と尾っぽのようなもの、これが長いほど操舵中に中央に戻ろうとする力(セルフセンタリングトルク)が強くなる。ゼロにしたら当然フィールはなくなる。だからキングピンオフセットを減らしたら本当はフィールは薄くなるのだが、ゴムカップリングがなくても振動が入らないギリギリのポイントを見つけ出してチューニングを出した。これによって、操舵にゴムのねじれによる遅れ感がなくダイレクトでありながら、情報フィードバックも豊かで、かつ振動も上手く抑制する操舵系ができた。

 下り坂の中速コーナーに強くブレーキを残しながら進入していっても、リヤタイヤは落ち着いている。フロントのインフォメーションの豊かさもあって、前荷重を掛けたタイヤを最大に使って鼻先を入れられる。そこからトルク制御の正確なパワートレーンを生かしてロールを後ろへ移動して旋回、出口へ加速という一連の動作がとても綺麗にできる。

 一度、意地悪にブレーキを強めてアンダーを出してみたが、アクセルに踏み替えてやると何事もなかったようにノーズがインに引き込まれる。理屈的にはAWDの仕事だと思われるが、体感的にその介入は分からない。グリップの低い路面でもしものとき、自然でドライバーの邪魔をしないAWDシステムは強い味方になるだろう。スポーツセダンとしてとても頼もしく、信頼できる。

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