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“普通の会社員”には無縁!? 蔓延する「副業万歳論」のワナ雇用ジャーナリスト海老原嗣生が斬る(2/5 ページ)

» 2018年07月06日 08時00分 公開
[海老原嗣生ITmedia]

3者で異なるWワークの力点

 Wワーク推進にかかわる3つの源流は、それぞれ力点が微妙に異なるので整理する。

■ライフシフト派

(1)今の産業が廃れても大丈夫なように、保険となる「もう一つの仕事」を考えておく。

(2)65歳以降も活躍できるよう、体力・知力勝負ではない仕事を考えておこう。

■創造的自由主義者

(1)会社に生殺与奪権を握られないよう、保険となる仕事を用意しておく。

(2)生活を楽しみ、個性を生かせるような、やりたいことを仕事にしてみよう。

■アベノミクス

(1)「生活残業」をするくらいなら、さっさと退社して自らの腕で稼ごう。

(2)企業も社員を縛る兼業規制などを解き、掛け持ちで複数社働いても構わない社会にしていこう。

 これらが並列で語られることにより、Wワークは現実感が乏しくなっていく。

 過去、私は新聞やビジネス誌において、Wワークについて批判的言辞を弄(ろう)してきたが、それは主に「アベノミクスから発したWワーク推進」についてであった。後述するが、創造的自由主義者のWワーク推進についても、一部懐疑的に思うところはある。一方、ワークシフト派の唱える「働き方シフト」については、少しチューニングを加えれば、賛成してもよいと考えている。

アベノミクス型Wワークの問題点

 私が「アベノミクスから端を発したWワーク推進」を批判する理由は2つある。1点目は、多くの労働者が生活のために残業をしているわけではないという事情からだ。

phot 仕事量の多さから、仕方なく残業をしている会社員が圧倒的に多い(写真提供:Getty Images)

 厚生労働省は2015年度の「過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究事業」で、フルタイムの正社員に「残業が発生する理由」を聞いている。上位を占めたのは、「人員が足りないため(仕事量が多いため)」(41.3%)、「予定外の仕事が突発的に発生するため」(32.2%)、「業務の繁閑が激しいため」(30.6%)であり、「残業手当を増やしたいため」はわずか2.2%にすぎなかった。

 私が委員を務めていた、奈良県の行財政改革プロジェクトが実施した同様のアンケート調査においても、ほぼ同じ結果となった。つまり、一般の人は、生活費欲しさに無駄な残業をしているわけではなく、仕事が終わらないから帰れないだけなのである。

 あるネット調査では、残業理由の1位が「生活費を稼ぎたい」という結果になった。しかしその調査では、月の残業時間が「10時間未満」という、ほとんど残業をしていない人たちが最多となっていたのだ。こんな気楽な調査結果を、私が出演したBS討論番組で放映した結果、番組には苦情のメールやFAXが寄せられることになった。

 つまり「Wワークをしてほかで稼げ」というなら、その前に「Wワークをする余裕ができるよう、それだけ仕事を減らせ!」というのが、多くの労働者にとっての本音なのだ。

phot 残業手当を増やしたいという理由はわずか2.2%にすぎない(厚生労働省の2015年度「過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究事業」より)

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