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“普通の会社員”には無縁!? 蔓延する「副業万歳論」のワナ雇用ジャーナリスト海老原嗣生が斬る(3/5 ページ)

» 2018年07月06日 08時00分 公開
[海老原嗣生ITmedia]

「普通の人」はどうやって稼ぐの……?

 2点目の理由は、Wワークによって稼ぎを得ることは、大多数の労働者にとってハードルが高いとの実態からだ。行政の旗振りには、点取り虫的な企業がすぐ尻馬に乗る。例えば「Wワーク推進」をしきりに広報しているのは大手製薬会社や、すっかり「働き方改革のお手本企業」となったシステム会社などだ。しかし、「先進的」とされている企業の事例をつぶさに検証すると、ある事実が見えてくる。立派に稼げているのは希少性の高いスペシャリストたちだけで、実際にはほんの一握りにすぎないのが現実なのだ。

 例えば、薬剤師がその免許をドラッグストアに貸しているケースや、人手不足によって引く手あまた状態になっているWebデザイナーやシステム開発に従事する労働者のケースがそれにあたる。ただ、彼らは圧倒的少数のいわゆる「勝ち組労働者」なのだ。一方、大多数が従事する営業・事務・流通・販売・製造・建設分野に携わる現場労働者が、Wワークで大いに稼いでいるという話はめったに出てこない。

phot Wワークで稼いでいるのは圧倒的少数の「勝ち組労働者」のみ(写真提供:Getty Images)

 そこで私は、こうした職業の人たちで、Wワークをしているケースを取材してみた。だが、「工場勤務後にガソリンスタンドで働く」「事務を終えて帰宅後、近くのコンビニで働く」というケースがほとんどだった。このような働き方をしたとしても、本業で残業するよりも待遇は落ちるし、ワークライフバランスも満たされない。これが現実なのだ。

 繰り返すが、スペシャリストではない「普通の人」にとって、Wワークで稼ぐことは生易しいことではない。その点を再確認しておきたい。

「主客転倒」の創造的自由論

 私は創造的自由主義者の意見についても、2つの側面から疑問を持っている。

 1点目は、「他でもうけ口があるから、会社と対等になれる」という意見は、企業の人事管理の本音とは真逆だからだ。自分と会社が対等になるためには、「会社に辞めないでほしい」と思われる人物になることが得策だ。

 例えば、本業の仕事はそこそこで、他に副業としてもうけ口を持っている社員がいたとする。もし会社が不況に陥って人員を削減せざるを得ない場合、その社員を真っ先にリストラのターゲットにするだろう。そのとき会社はこう言うはずだ。

 「君はわが社のほかで十分に収入を得られるのだから、そこでもうければいいじゃないか。会社に頼らない生き方を、ぜひ進めてください」

 2点目は、「やりたいことで、本当に稼げるのか」という疑問だ。

 料理や園芸、デザイン、作詞・作曲、小説や脚本書きなど、やりたいことはいくらでもあるだろう。余暇でそれをすることは大いに尊重する。

 私にも夢があり、ジャーナリストとして仕事をする傍ら、余暇はその夢に没頭している。ただ、それはなかなか目が出ない。素人的には褒められるレベルであったとしても、プロのレベルとは雲泥の差がある場合が多い。だからこそ、普通の会社員として糊口(ここう)をしのぐ術を用意したうえで、余暇で思いっきりチャレンジすべし、と言いたい。

 つまり副業をするためにこそ、本業がより大切だという逆説的な真実があるのだ。だからこの点については、私は必ずしもWワークをすることに反対しているわけではない。だが、Wワークによって主(本業)と従(副業)が逆転してしまう、つまり「主客転倒」をしてしまうために、逆の結論になるのだと考えている。

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