かこさんが亡くなる数年前、雑誌の取材でかこさんのお宅を訪ねたことがある。「今度からすのパンやさんのかこさんとお会いするの。何かかこさんにお伝えしたいことある?」と子どもたちに聞くと、蕎麦好きのわが子たちは「おそば屋さんとてんぷら屋さんの本も書いて欲しい!」。
これには本当にびっくり。その少し前にかこさんはパンやさんから40年ぶりに「からすのおそばやさん」や「からすのてんぷらやさん」を出版されていたのだから。どんぴしゃりと子どもたちの好きなものを分かっていらっしゃるなんて!
実際にお会いしたかこさんは、とても穏やかでやさしかった。きちんと一言一言丁寧に確かめるようにお話しする姿は、かこさんご自身が真っすぐで、ご自分の作品に対してブレのない姿勢をもっていらっしゃることを表していた。当時まだ下の子が生まれたばかりで、2人の男の子の育児と仕事のバランスがうまくとれず、毎日バタバタしていた私に、「あまり神経質にならず、親御さんは自分のお仕事をまず第一に。できないことは仕方ない。子どもさんは親御さんをちゃんと見ていますよ。親御さんの道をきちんとやってさえすれば、ちゃんと子どもたちも分かりますよ」とかけてくださった言葉が今も忘れられない。
大人の私たちが自分たちのいいように方向性を示したって、その通りにいかないのが子ども。いろんな回り道もするし、言うことなんてほとんど聞いてくれない。けれども彼らは周りをものすごく見ている。大人が固定概念に縛られ、見落としてしまうような細かいところまで観察しているし、「面白い!」と思ったらとことん追求してくる。
かこさんは、「作品が子どもたちに受け入れられるポイントは起承転結。それがしっかりして内容があれば、子どもたちは最後までしっかりと見てくれる」と語ってくれた。子どもは子どもであるとともに、子どもではない。考える力と自分でいろんなことを乗り越える力をもった人なのである。
そんなことをかこさんとお話しをしていると、肩の力がふと抜けた気がした。そんなに考えすぎて子育てをしなくても大丈夫。子どもはきちんと大きくなっていくんだから。大丈夫だよ、トントン、と肩を優しくたたいてくれるような感じ。初対面なのに、ちっともそんな感じがしない。かこさんの絵本のように、とても懐かしく、いつでもそこで待っていてくれるような存在の方だった。
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