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弱みだった「人」をどう変えた? アルバイト出身の女性役員が語るスープストックトーキョー流の働き方顧客満足にも影響(4/5 ページ)

» 2018年07月13日 06時30分 公開
[やつづかえりITmedia]

社員が休めるよう「ヘルプ要員部隊」新設

 パートナーを巻き込む施策のほかに、社員のワークライフバランスを向上させる取り組みもある。

 江澤さんが人材開発部長になった当時、現場の社員からは「シフトが定まらず、自分が休める日が決まらない」とか、「お店の状態が不安定で、休んでも休んだ気がしない」といった声が多く聞かれた。それに対し江澤さんは、最初はピンとこなかったという。自身が店長をしていたころのことを振り返ると、店にはフルタイムで働くいわゆるフリーターが何人かいて、きちんと育成して任せられることが増えれば、社員の負担を軽減できたからだ。

 しかし、最近のパートナーの構成をよく見てみると、短時間のアルバイトがほとんどでフリーターが非常に少なくなっていた。それが分かったとき、江澤さんは「それなら現場が大変になるわけだ」と納得し、手を打つことにしたのだそう。

 「世の中にフリーターさんはいるのに、仕事先として『Soup Stock Tokyo』を選んでもらえなかったのは、時給の壁があったからでした。フリーターさんたちがWebでアルバイト情報を探すときに時給でフィルターをかけると、私たちの求人が出てこないような状況だったんですね。そもそも目に留まらない。目に留まれば、魅力ある職場だと感じてもらえる自信はあったので、フルタイムで働いてくれる方には少し高い時給を提示するようにしました」(江澤さん)

 その分パートナーの人件費は増えるわけだが、社員の残業が減り、人件費の総額としてはそれほど変わらずに済んでいるという。

 社員のゆとりを取り戻すために、休日も増やした。それまでは月に8日だった公休を9日にし、それとは別に従来6日だった季節休暇を「生活価値拡充休暇」に改めるとともに12日に増やした。

 これで前年よりも18日増の年間120日の休日が付与されることになったが、社員ははじめ、「本当に休めるの?」と半信半疑だったという。確かに、業務量が多かったり、シフト調整がうまくいかなかったりすると、せっかくの休暇制度を使わずに終わるということもありそうだ。しかし、今回は秘策があった。

 「休みの日数が増えても、実際に使われないと意味がないので、休暇取得をサポートする専門部隊を作りました。社員が『生活価値拡充休暇』を取っている間、お店をサポートしに行くメンバーが4人ほどいるんです」(江澤さん)

 特殊部隊のメンバーは店長もできるスキルを持つ社員で、店長不在の店に行って臨時の責任者としてお店を回すこともできるそうだ。

 「休暇を取れるように自分たちで何とかしてね、というのではなく、会社としてもみんなが安心して休みが取れる体制を作ることで、社員は会社の本気度に気付いてくれたようです。それが、自分がいなくてもしっかり運営できるように体制を整えようといった前向きな動きにもつながっています」(江澤さん)

 先に紹介したSoup Stock Tokyo Grand Prixの際は、スタッフがコンテストに出場するために手が足りなくなる店があれば、ほかの店のスタッフがヘルプに行くなどの協力体制もあるという。新たな活動や働き方を推進するために、「どうしたらできるか」まで考えてサポート体制を整備していることがよく分かる。

 残業が減り、休みが増え、ゆとりができた暁には、少し視野を広げて働き方やキャリアについて考えて欲しいということで「ピボットワーク制度」をスタートした。これは、副業解禁の一種で、社外に別の仕事を持つ複業のほか、親会社のスマイルズ内の仕事や、自社の別の部署の仕事をする「グループ内複業」も推奨している。グループ内複業では、興味のある職種を一時的に体験してみることもできる。江澤さんは「一人一人の今後の幅を広げるためにも、この制度を活性化させていきたい」と意気込む。

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