JAXA×宇宙ビジネス、世界初の共創プログラムとは?宇宙ビジネスの新潮流(2/2 ページ)

» 2018年07月28日 08時40分 公開
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グローバルマーケットとして捉える

 ビジネスとしての宇宙を考えた場合に重要になるのは、世界をマーケットとして捉えたビジネスを考えることでしょう。米国政府や米国企業がこれまで多くの宇宙技術を利活用してきましたが、その前提には彼らがグローバルに活動を行っているという事実があります。世界をマーケットにしている人が宇宙産業の顧客になります。ソフトバンクの米OneWebへの出資も一例だと思います。

JAXA 新事業促進部長の岩本裕之氏 JAXA 新事業促進部長の岩本裕之氏

 これから伸びる分野としてはビッグデータ、IoT、AIが考えられており、宇宙開発分野への親和性は高いと思います。政府が衛星データのオープン&フリー化を進めていますし、こうした取り組みは欧州では先行しています。米国でも一時期小型衛星の開発・打ち上げをする企業が乱立しましたが、買収などで集約されはじめています。昨今はデータの処理、さらにはデータの解析へと2〜3年のサイクルで宇宙ビジネス業界の中心が変わりつつあります。

 もう一つ、宇宙に出ていく探査分野にも注目しています。スペースデブリの除去、宇宙資源探査などさまざまな分野がありますが、探査していく上での生活関連技術は日本のお家芸だと思います。現在NASAを中心に進めている月探査プログラムでも、日本からは国際宇宙ステーションの実験棟「きぼう」で培った居住モジュール、補給機「HTV-X」で培ったロジスティクス技術、有人の月面走行車技術を提案しています。

世界初の官民パートナーシッププログラム

 こうした時代、官民連携のあり方も変わりつつあります。大きな考え方としては民間ができることは民間に任せて、国はよりリスクが高いところ、次のステップを狙っていくというものです。民間の取り組みを通じて、宇宙産業界全体が盛り上がっていくことは良いことです。

 日本でも2017年に発表された「宇宙産業ビジョン2030」や、今年に入って安倍晋三首相が発表した、今後5年間で官民合わせて1000億円のリスクマネー供給など、宇宙ビジネスに対する期待が高まっています。こうした背景の中、JAXAは今年度から始まった第4次中期計画において「宇宙利用拡大と産業振興」を柱の1つに掲げています。

 そのための具体的な施策として立ち上げたのが「宇宙イノベーションパートナーシップ(通称:J-SPARC)」です。従来の商業化はJAXAがサービスを開発し、後に民間企業に移管する「ステップ論」でした。他方、J-SPARCでは民間とJAXAが「イコールパートナー」として当初より事業化を見据えて共創していきます。

 官民連携は多くの国で取り組まれてきていますが、J-SPARCのように事業化を見据えて制度として立ち上げたのは、おそらく世界でも初の取り組みだと思います。実際、米国や欧州の宇宙機関からの反響も多いです。現在J-SPARCでは、第1弾として「地球低軌道(LEO)有人活動における事業共創」に関する事業アイデアの募集を行っていますので、できるだけ多くの方々に応募をいただければ幸いです。


 1時間のインタビューはあっという間だったが、民間の取り組みを通じた産業拡大への期待とともに、JAXAとして新たな時代に求められる官民連携のあり方を創っていく強い意気込みを伺えた。今後の成果に注目したい。

著者プロフィール

石田 真康(MASAYASU ISHIDA)

A.T. カーニー株式会社 プリンシパル

ハイテク・IT業界、自動車業界などを中心に、15年のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会 委員。日本初の民間宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人SPACETIDE共同創業者 兼 代表理事。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。著書に「宇宙ビジネス入門 Newspace革命の全貌」(日経BP社)。

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