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突っ込みどころ満載! 「水槽より注目浴びるPOP」を作る水族館員の告白連載:ショボいけど、勝てます。 竹島水族館のアットホーム経営論(2/5 ページ)

» 2018年08月15日 07時30分 公開
[大宮冬洋ITmedia]

「この水族館はめちゃくちゃ面白い」。高校時代の忘れられない思い出

 忘れられない出来事がある。商業高校の2年生のとき、学校の行事で名古屋港水族館を訪れたことだ。竹山さんは巨大な水族館の展示に見飽きることはなかった。しかし、クラスメイトたちは水槽に見向きもせず、携帯ゲームに興じてばかりいたのだ。

 翌年、竹山さんは友達2人を連れて、久しぶりに竹島水族館を訪れた。その頃には改革が進行しており、「おどろおどろしい雰囲気」はなくなり、ユニークな手書き解説板(以下POP)に代表されるアットホームな水族館へと変貌を遂げていた。

 「僕も『なんだこれは!』と驚きましたが、もっとびっくりしたのは友達の反応です。水族館に無関心だったはずなのに、『この水族館はめちゃくちゃ面白い』と大喜びしていました。『他の水族館にも行ってみよう』なんて言うんです。人の気持ちを一度の体験で変えるなんてすごいことだと今でも思います」

phot 魚に詳しくない人でも「なるほど」と楽しく学べるPOPを書くことがポイントだ

 当時の竹山さんは進路に悩んでいた。親からは卒業したら働くように勧められており、自分も「適当な就職先を見つけて、好きな魚を飼おう」と思いかけていた。しかし、この出来事の感動が彼の背中を押したのだ。

 竹山さんは親に頭を下げ、水族館関連の勉強ができる専門学校に入学。当時、竹島水族館の主任飼育員で、改革の中心人物だった小林龍二さん(37歳。現館長)が講師として授業をしており、竹山さんは「魚ではなく客あってこその水族館」と説く小林さんに学ぶことができた。

 「竹島水族館で2週間の実習とアルバイトもさせてもらいました。他の水族館は実習内容がきっちり決められているのですが、ここには『こうしなくちゃ絶対にダメ』という枠がありません。みんな自分の頭で考えて、自分の責任で自由に動いています。実習生の僕にも隔たりはなく、ずっとここで働いているんだと錯覚するほどのめり込んでいましたね」

 製造業が発達している愛知県は全国有数の人手不足県でもある。竹山さんのように元気でやる気にあふれた若者が就職先に困ることはない。ただし、CMなどを通した企業のイメージや年収などの待遇面だけで就職をするとミスマッチが生じて、本人も採用側も不幸な結果に終わりやすい。

 何の仕事をするか、ではなくて、どの職場でどんな仲間と働くのか。竹島水族館のスタッフみんなと一緒に働くことがひたすらに楽しいと言い切る竹山さんは、就職希望者が殺到している竹島水族館にとってもぜひ欲しい人材だったのだろう。幸運なマッチングである。

phot 深海生物に触ることができる「さわりんプール」にて。「タカアシガニの性格もいろいろで、こいつはすごく反抗的です」

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