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» 2018年08月30日 08時30分 公開

障害者はただの「数字」なのか:障害者雇用水増しに「怒りより痛み感じて」 車いすの歌姫の叫び (2/5)

[服部良祐,ITmedia]

「障害者には居てもらう気がない」

 今や後進のブラインドライターの育成まで始めた松田さん。しかしそれまでに勤めた4つの会社では、まともな仕事を与えられないことばかりだった。企業が法律で義務付けられた障害者雇用の比率を維持するためだけに雇っていたと松田さんはみている。「私は(法定雇用率という)数のためにここにいるんだ、と思った。『座っているのが仕事』と言われ続けてやりがいを感じられるわけがない。何のために毎日寝起きしているのか、と思っていた」(松田さん)。

photo 松田さんはつえを突いてモデルとしても活躍する

 盲学校を出た後、22歳の時に上京して最初の会社に就職した。簡単な書類整理の仕事を与えられたものの、経営悪化を理由に8カ月でクビに。「『明日から君は来なくていいよ』と言われた。こういうの、ドラマの中だけの話だと思っていたのに……」(松田さん)。

 2社目では上司から仕事をそもそも与えられず、こちらからできる業務を提案しても受け入れられない。他の社員が気を遣って回してくれた仕事をこなしていた。わずかに視力が残る松田さんが事務作業をするのに必要だった、書類を拡大して見ることができるモニターの購入を頼んだのにこの上司は拒否。自腹で買う羽目に。2年間働いたが、任期満了を理由に「障害者は居てもらう気がないから早くいなくなって」と言われ、またも退職した。

 次に入った大手有名メーカーの子会社では、さらに激しいパワーハラスメントを上司から受けた。着任したての松田さんに放たれた言葉は「聴覚障害より視覚障害の方が仕事ができると思って採ったのに、座らせてみたらほとんど何も見えてないな」。ここでも視覚障害者の事務作業に必要な高価な機器の購入を「あなた1人のために書類を用意する暇がない」と拒否された。

 与えられるのは郵便物をオフィスに配るような簡単な業務だけ。松田さんへの上司の暴言もエスカレートしていった。ある日、出社すると自分の机の上にあった書類が全部消えていた。「君は目が見えないから(書類がないのが)分からないだろうけれど、君に対する信用が無くなったので仕事をすべて取り上げた」。

 本来の業務でないオフィスの掃除をさせられるようになった松田さん。足が腫れて通勤するのがやっとなほど体調も悪化したが、歯を食いしばって働き続けた。しかし「絶対休むなよ」「お前の年休減らしたから」と言い放つ上司のパワハラに耐えかねて、1年8カ月在籍したこの会社も退職した。

 その後、飲食関係の会社で総務として働いているとき、雑誌の編集者からテープ起こしの依頼を受けた。その仕事ぶりが評判になり、だんだんと本格的にブラインドライターの仕事を手掛けるように。実は盲学校にいたとき、視力が弱かったことから授業内容をあらかじめ録音し、ノートに書き起こして勉強する習慣が身についていた。「テープ起こしって私にはあまりにも普通のこと。だから会社でも業務として提案しなかった」(松田さん)。

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