それにも関わらず、現行の規制下で仮想通貨ビジネスを日本で展開しようとすると、多くの場合に仮想通貨交換業の登録が必要とされて、金融機関に準じた重厚な管理体制が求められてしまう。規制省庁としては銀行や証券会社などを律してきたやり方を踏襲しているということかもしれない。しかし「盗難事件への対処」という一点だけを見ると、この対応はちぐはぐに見える。マウントゴックスやコインチェックで起こった仮想通貨盗難を防ぐには、仮想通貨そのもののリテラシーを向上させ、安全なオペレーションを徹底することが基本であり最も大事だ。そこに必要なのは、最新技術に精通した世界水準のエンジニアのチームであって、重厚な非エンジニア組織ではない。
実際には、金融庁が規制を強化した背景には別の問題があった。仮想通貨交換業者(未登録の業者を含む)を調べたところ、「経営者が使い込みをしていた事案」のようなひどい不祥事も見つかった。それ以外にも、大小さまざまな問題点が見つかった。問題に対処するために経営陣を含めた役員や社員の行動を律する体制が求められるようになった。
とはいえ、非エンジニア組織の重厚化を求めることは、テクノロジー系スタートアップとしては非常に痛みを伴うことだ。プロダクトの開発やマーケティングに直接従事しない社員が大勢いる重厚な組織がイノベーションの「乗り物」として不適切であることは、スタートアップ企業に関わる人にとってはイロハのイともいえる知見なのだ。
仮想通貨を扱う企業すべてに重厚な管理体制を義務付けるとするなら、それは「赤旗法」と同じ結果を招くだろう。イノベーションの遅滞である。
「赤旗法」とは、19世紀にイギリスで施工された法律で、エンジンを持っていて高速走行できる自動車が発明されたのに、それを危険視して、赤旗を持った人間に自動車の前を歩かせることを義務付けたものだ。人間の組織抜きで信用を構築できる仮想通貨&パブリックブロックチェーンを活用するビジネスのために、重厚な管理体制が義務付けられるのは、本来おかしなことである。
筆者の意見は、顧客の資金を預かる種類の業者(カストディ業務を伴う業者)と、顧客資産を預からない業者、あるいはごく少額の資産だけを預かる業者を分けて律していくスタイルが現実的ではないかというものである。「業者が顧客資産を預からない」(ノン・カストディ)ビジネスを開発可能であることが、仮想通貨テクノロジーの最大のイノベーションであるからだ。
そして、資金を預かる組織に求められる規律を、技術(パブリックブロックチェーン)によって実現するための研究開発を進めていくことが、仮想通貨の力を引き出す上での正攻法だと考えている。
仮想通貨の可能性を、規制によって潰してはならない。顧客資産保護や金融の規律を求めることが、結果として見当違いな「赤旗法」になっていないかどうかを、この分野に携わる人々にはよく考えてもらいたい。
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