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わが家をとりこにした西表島の仙人内田恭子の「日常で触れたプロフェッショナル」(3/5 ページ)

» 2018年09月05日 06時45分 公開
[内田恭子ITmedia]

洞穴の恐怖体験

 さて、日が本格的に傾き始めたころ、突然路上に車を停め、長靴と懐中電灯をおもむろ私たちに手渡す森本さん。あまり説明もないまま、道路脇の道なき道をずかずかと入っていく。舗装された道からいきなりジャングルのはじまりはじまり。背の高い草をかき分けながら、連れて行かれたのは、ちょっとした洞穴の入り口。

 「ここでコウモリたちが出てくるのを待ちます」

 「コ、コウモリですか……? あの黒い、バタバタくるヤツですよね」

 すでに“摩訶不思議・森本ワールド”に飲み込まれている私たちは、ただただうなずくしかない。超音波を拾う機械を洞穴に向け(コウモリのなき声は人間の耳では聞けないのだ)、「うん、ざっと500匹はいますね。夜行性だから日が沈むと一斉に餌を探しに出てきますよ」とさらり。

 黙って顔を見合わせる私たち夫婦。よく状況が理解できていないのんきな子どもたち。どうしよう。どうしようもない。引き返したい。引き返せない。来る、来る、ヤツラらがやって来る!!

 こんなにドキドキしながら日暮れを待ったのは、今までの人生にないことだった。最後の日の光がうっすらと消えるころ、1匹、そしてまた1匹とヤツらが出てきた。暗くなっていてよく分からないけれど思ったより小さいかも。そう思った瞬間、一気にバサバサと大群が飛び出してきた。怯えて私の後ろに回りしがみつく子どもたち。人を盾にするな。バサッ、バサッと私の頭をたくさんのヤツらがかすめていく。

 「彼らは超音波で形を見ているから、動くと当たってくるから動かないでくださいね!」

 いやいや、動けないでしょ。話せないでしょ。ただただヤツらがかすめてくるのを、息を止め、歯をくいしばって、顔をひきつらせて、耐えるしかないのだった。

 どれくらいの間、そうしていただろう。気が付くと、辺りに静寂が戻っていた。森本さん曰く、私たちが見たのはカグラコウモリ。体長10センチくらいで比較的小さいらしい。ふと頭上を見ると、それこそ映画に出てくる吸血コウモリと思うような1.5メートルもあるオオコウモリたちがふわりふわりと餌を狙って舞っている。そこで初めてぞっとした。ようやく頭がザ・コウモリを認識したよう。暗くてよかった。普通にコウモリたちが見えていたらその場で卒倒していたに違いない。いずれにせよ、激しすぎるコウモリアタックで始まった西表島の夜のジャングル体験だった。

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