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わが家をとりこにした西表島の仙人内田恭子の「日常で触れたプロフェッショナル」(4/5 ページ)

» 2018年09月05日 06時45分 公開
[内田恭子ITmedia]

自然の力が私を変えた

 もちろん、その後も衝撃は止まらない。森本さんは容赦なくまた草むらに入っていく。辺りはすっかり真っ暗。手元の懐中電灯だけでは心もとなさすぎる。一番後ろは嫌だと言い張る私を真ん中に挟んで、一行は進んでいく。こういう時の男の子ってすごい。熱も恐怖心も関係なく、森本さんの後を一生懸命についていく。ちょっと頼もしい。

 これ、夜だからまだいいんだよね、昼間だったらいろいろなものが見えちゃって、本当に無理かもしれない。そんなことを考えていると、

 「はい。サキシマハブですねー」

 「ママ、ハブだって!」

 「……」

 もはや驚きの声も出ない。普段いてはいけないようなものがここにはいすぎる。いや、ここが彼らのホームで、そこに私たちはお邪魔をさせてもらっているのだ。いてはいけないのは私たちのほうだ。だからなるべく彼らの生活を乱さないよう気を付ける。

 いきなり大きなヤシガニがいたり、ナナフシがいたり、タランチュラがいても、動じない。刺激をしない。大丈夫、大丈夫。だってここが彼らが生きて暮らしている場所。これが自然界。不思議なことに怖がっているよりも、別世界すぎて次第におもしろくなってくる。家で小さい蜘蛛を見つけてキャーキャー言っている私は別人だ。なるべく生き物を興奮させないように、いつの間にか「すみませんねえ」「はい、通ります」なんてつぶやきながら歩いていた。

 ジャングルを抜けると、波の音とともにいきなり砂浜に出た。誰もいない静かな海。波音が穏やかだ。私は夜の海は怖くて好きになれないけれど、ここは違う。月がこんなに明るいなんて知らなかった。空は満天の星で埋め尽くされていて、天の川と流れ星でいっそう華やかな夜空になっている。砂浜にはウミガメ産卵跡があったりして、夜でも生き物たちの息遣いとぬくもりが感じられた。

 夢のような探検が終わり、汗だくになってホテルに戻るとまたビックリ。38度あった長男の熱がすっかり下がっている。間違いなく自然の癒しパワーだろうな。

見事に大きなハタを釣り上げた! 見事に大きなハタを釣り上げた!

 残りの西表島での日々も自然にお邪魔をして、滝登りや魚釣り、シュノーケリングと勤しんだ私たち。子どもも大人も大興奮でずっとはしゃいで、大笑いをしている。ただそこにあるのは自然だけ。その自然の中でこんなにも楽しめるなんて!

 汚れるの嫌い、暑いの嫌い、疲れるの嫌い、シティー大好きな私が、新たな自分を発見した。山でトカゲを見つけて、手に乗せて喜ぶなんて。岩から滝壺に子どもたちと一緒にジャンプして、大笑いするなんて。シュノーケリングで色鮮やかな魚やウミガメに遭遇して、こんなにもずっと海に潜っていたいと思うなんて。船で釣りに出て、人生初の魚を釣って、日焼けも構わずに熱中するなんて。全部島の魅力、自然の力の仕業。

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