東急の鉄道分社化で「通勤混雑対策」は進むのか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

» 2018年10月05日 07時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]

田園都市線「渋谷駅」大改造の布石

 ここから先は筆者の予想にすぎないけれども、東急電鉄の鉄道事業分社化は、将来の持ち株会社移行というよりも、「東急電鉄本体と鉄道事業のお財布をキッチリと分け、その上で公的支援を願いたい」ではないだろうか。これは公共交通事業者ならではの考え方だ。

 東急電鉄の子会社に上田電鉄という会社がある。長野県上田市で、北陸新幹線としなの鉄道の上田駅から別所温泉まで、11.6キロのローカル鉄道「別所線」を運行している。モータリゼーションによって経営難に陥り、一時は回復したものの、少子化による利用者減少、安全面の設備投資によって経営難が続いた。

 別所線を運営していた上田交通(当時)は自治体などに支援を求め、第三セクター化なども検討された。しかし、結局は上田交通のまま上田市、長野県、国からの補助金を得る形で存続した。その後、別所線の利便性向上と公的支援の継続のため、鉄道事業のみ分社化して上田電鉄が設立された。上田交通は不動産、バス、タクシー、ホテルなどを多角経営しており、不動産部門以外は厳しい状況だった。上田交通に資金提供すると、その内部で使途が不透明になるという批判を受けかねない。そこで鉄道事業に特化した上田電鉄を設立した。バス会社とタクシー会社は後に売却している。

photo 上田電鉄別所線は、鉄道に対する公的支援を受けるために上田交通から独立した会社。上田は東急電鉄創設者五島慶太ゆかりの地だ

 東急電鉄の鉄道事業分社化は、むしろこちらの枠組みではないか。もちろん東急電鉄が経営難というわけではない。そこは上田電鉄とは違う。しかし、東急電鉄には自社でまかないきれない案件がある。田園都市線渋谷駅の拡張だ。

 田園都市線・東京メトロ半蔵門線の渋谷駅は、プラットホーム1面の両側に上下線がある形だ。1面2線と呼ばれる。これに対して東急東横線・東京メトロ副都心線の渋谷駅は2面4線。プラットホーム2面で、直通列車の他に渋谷駅で折り返し列車を設定できる。または、先行列車の乗降中に後続列車を隣の線路に入れ、列車の停車時間を延ばしつつ運行間隔を短縮できる。こうした方策は、現在の田園都市線の渋谷駅ではできない。

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