「米粒スパイチップ」だけじゃない 中国に“情報を盗まれる”恐怖世界を読み解くニュース・サロン(3/5 ページ)

» 2018年10月18日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

中国が盗み出してきた、膨大な情報

 例えば、米ニューヨーク・タイムズ紙のサイバー安全保障担当であるデービッド・サンガー記者が6月に米国で出版した『The Perfect Weapon: War, Sabotage, and Fear in the Cyber Age』には、こんな記述がある。

 「中国(のハッカー)はシリコンバレーのテクノロジーを、国有企業と軍のために奪っている」

 「中国のハッカーたちの目的は、単にGoogle(グーグル)のアルゴリズムを盗んだり、中国がグーグルと競うために作った検索エンジンで、今は世界で2番目に大きくなった百度(バイドゥ)を手助けしたりするためだけではない。中国人ハッカーたちは、中国からは知り得ることが困難な、米国内に暮らす中国人の動きや、米国人の重要な政策立案者たちと付き合いのある中国人が彼らとどんなやりとりをしているのかまで、Gメールからアクセスしようとした」

 グーグルについては、NSA(米国家安全保障局)の元幹部ジョエル・ブエナーも、筆者の取材にこう語っている。「グーグルの魔法のような技術である(検索エンジンの)ソースコードが、中国に盗まれてしまっている」

 さらにブレナーは「グーグルは永久的に中国当局が自社のシステムの中に潜り込んでいると仮定しなければならない」と、自著で書いている。

 このように、中国政府はこれまで、サイバー攻撃で米国の知的財産や機密情報などを散々盗んできた。グーグル検索のコードだけでなく、ステルス戦闘機F-35の設計図や、米CIA職員などの諜報員の素性や個人情報など、とにかくかなり幅広い分野から、膨大な情報をサイバー攻撃で盗み出してきた。

 この話に少し情報を追加すると、中国で米国へのハッキングを担当していたのは、人民解放軍のサイバー攻撃部門に属する61398部隊だった。だが2014年に、米国の知的財産を盗もうとした容疑で61398部隊の中国人5人が米司法省に起訴されたことで、61398部隊の活動はあまり確認されなくなった。結局、15年に創設された中国人民解放軍戦略支援部隊の網絡系統部(Cyber Corps)に組み込まれたとの分析もある。

 15年には、米国のバラク・オバマ大統領(当時)と、中国の習近平国家主席が、お互いに知的財産を狙った商業的なサイバー攻撃はしないと合意している。その後から、中国の対米サイバー攻撃は激減したが、ゼロになったわけではない。最近では、11月の米中間選挙を見据えてか、超タカ派として知られるジョン・ボルトン大統領補佐官など米政府高官がやたらと「中国のハッキングが増えている」と声を上げている。だが現実としては、米セキュリティ企業関係者などの話を聞いている限り、15年の合意前の水準になっているとは考えにくい。

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