また、つい最近、ある西側諸国で情報機関に勤務していた元関係者と、今回の中国によるマイクロチップのニュースについて話をしていたら、この人物はこんなことを話した。
「私たちの間では、あの話はごく普通のことですね。私の国の大手テレコム会社が以前、中国企業からインターネット用のルーターを数多く発注していた。そこで、私のいた組織(諜報機関)は、その中国企業に、ある“チップ”をルーター内部に取り付けるよう指示をしていた。そのチップは、実は後に私たちがその機器に不正アクセスできるようにするためのものだったのだよ。国民監視のために、そんなことをやっていた」
とんでもない発言である。この国の人が聞いたら大きな問題になりそうだが、とにかく、こうした工作は普通に行われているのである。
最近、こんな話もあった。10月5日、GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)に属するロシア人4人がオランダで4月に逮捕されていたことが判明した。彼らは、オランダのハーグにある化学兵器禁止機関(OPCW)の駐車場で、同機関のWi-Fiにハッキングで侵入しようとしていたところを現行犯逮捕された。
その後のオランダ当局の調査で、逮捕されたGRUのハッカーらは、これまでにマレーシア航空17便撃墜事件の捜査チームや、ロシア人アスリートの薬物使用を暴露した世界反ドーピング機関(WADA)でハッキングをしてきたことが判明。さらにハーグの後、英南部ソールズベリーで元ロシア情報機関員らに使われた神経剤「ノビチョク」を特定したラボをハッキングするためにスイスに向かうことになっていたという。
もはやハッカーはそこら中で暗躍している。ハッキングも世界中で日常的に行われている。マイクロチップを埋め込むような工作はこれまでも行われてきたし、今後も手を替え品を替え行われていくだろう。
そして、そんな時代に生きていることを、日本人も認識しておく必要があるだろう。既出の西側情報機関の元関係者はこう言っている。「すでに日本でも、中国などのハッカーたちが工作を行っているのは間違いない」
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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