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「アパレル廃棄問題」から近未来の社会シフトが見えてくる小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)

» 2018年10月18日 08時05分 公開
[中井彰人ITmedia]
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 本質的には欲しいものだけを作れば、こうした問題は生じない。特に十人十色の嗜好に対応すべき衣料品は個別受注生産が最もふさわしい商品だろう。AIやVR(仮想現実:ヴァーチャルリアリティ)、AR(オーギュメンテッドリアリティ:拡張現実)、などのIT技術の進展は、ネット上で、ストレスなく個別のオーダーを企業と消費者と間でやり取りできる環境をいつか整えるだろう。そうなれば、一般消費者でもAIのコーディネーターや仕立て屋との会話と採寸により、自分だけの服がリーズナブルな価格で買えるようになる上に、売れ残り廃棄の問題も解消する。

 これから想定されるさまざまな技術革新、特にAIは人の仕事を奪うといった「脅威論」をよく耳にするが、そうした脅威を上回るメリットを与えてくれることは間違いない。少なくとも、大量生産・大量廃棄という生活スタイルから脱却できるとすれば、この社会の持続可能性は飛躍的に向上する。

 人間を過酷な労働や単純労働から解放してくれる技術革新は、一時的にはそうした労働に従事している人たちから仕事を奪うことにはなるだろう。しかし、かつて英国で産業革命がおこったとき、機械の打ちこわし騒動があったが、産業革命後、庶民の生活水準は以前より明らかに向上した。これから来る技術革新は、人間を過酷な単純労働に抱え込んでいった産業革命とは違って、つらい単純作業や面白くない作業から人間を解放する可能性も持っている。その上、次世代に回す環境負荷という膨大なツケを、少しでも減らすことができるのであれば、今の世代はこうした環境変化を積極的に受け入れなければなるまい。

著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


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