そんな世界的な「石油たんぱく開発競争」の真っ只中に、大日本インキ化学工業も身を投じていた。そして追従して動き出したのが「スピルリナ計画」だ。
「タンク内で石油酵母を培養すると大量の炭酸ガスが出る。それを有効活用できないかといろいろと探している中で、フランスの探検隊がアフリカで発見して世界会議で発表した藻に着目した」(学術部長)
1962年、フランス国立石油研究所のメンバーであるG・クレマンという女性が、テレビのドキュメンタリー番組で訪れていたチャド共和国で、地元の民族が食べている「ダイエ」という料理に注目した。これが、アルカリ性が強いことで知られるチャド湖で採れた藻を乾燥したもので、栄養成分を調べてみると、驚くほど豊富なたんぱく質が含まれていることが分かった。
その藻こそが「スピルリナ」だ。
スピルリナも他の植物と同様、光合成で二酸化炭素を吸って酸素を排出する。石油酵母から出る炭酸ガスを無駄にせず、おまけに新たなたんぱく質まで生み出されるという意味では、まさにしくスピルリナと石油たんぱくは、「車輪の両輪」として進められる理想的なコンビだったのだ。
だが、ほどなくして、この関係が崩れてしまう。
「石油たんぱく」という響きに一部の消費者団体などが激しく反応し、発がん性の危険性を指摘したのだ。当時の厚生省も安全性を認めていたが、国会で取り上げられる事態にまで発展するとその姿勢を翻し、国内での研究製造を禁止し始めたのだ。
「既に石油たんぱくのプラントをルーマニアに輸出していたのですが、そこへダブルパンチとなったのがオイルショックです」(学術部長)
1973年のオイルショックで石油価格が高騰し、「無限の資源」という大前提が崩壊して「石油たんぱく」構想に暗雲が立ち込めてしまったのだ。
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