世界一の印刷インキメーカーが、「食べられる藻」を40年以上前からつくり続ける理由スピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2018年11月06日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]
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化学メーカーが「健康食品事業」にこだわった背景

 このようなスピルリナのブレイクに至るまでの経緯を振り返ってみて、どうしても気になったことがひとつある。

 正直、収益をガンガンあげるとは言い難いこのスピルリナ事業を大日本インキ化学工業という、化学メーカーがここまで長く続けようと思ったのか、ということだ。

 事実、70年代に同社と同じように、スピルリナ研究に名乗りを上げた企業の多くは「撤退」している。本業である印刷インキ等のビジネスへのシナジー効果があるわけでもない、「健康食品事業」になぜここまでこだわることができたのか

 その疑問に学術部長はこんな風に答えた。

 「この手のものは、研究に時間がかかるし、すぐに商売にならないと本当に大変なことが多い。それでも会社が続けてくれたのは、やはり今でもこれが世界の食料問題を解決できる“未来の食料”の1つだという信念があるからです」

 こうしている今も、アフリカでは飢えに苦しむ人がたくさんいる。その中のザンビア共和国で行われている「スピルリナ給食配給事業」にDICライフテックは協力している。

 貧しい家庭の子どもたちは、肉や魚が食べられるのはかなりまれで、「シマ」というトウモロコシの粉を練ったものや野菜ばかりなので、どうしてもたんぱく質が不足する。そこで、これらの食事にスピルリナを足すことで栄養バランスが改善されるのだ。

 また、ただ食料支援をしても根本的な解決にならないので、現地の人たちだけでスピルリナの生産ができるような体制が確立できるようなサポートも行なっている。

 ソーダ味アイスも進化させたセレブ御用達のスーパーフードは、ゆっくりだが着々と本来期待されていた「未来の食料」としての役割を果たしつつあるのだ。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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