発売中止の作品まで…… アニメの“円盤”は消滅するのか?ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(4/4 ページ)

» 2018年11月13日 07時00分 公開
[数土直志ITmedia]
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市場ニーズより多過ぎるタイトル数

 日本でも手元に置くコレクションとして、ビデオソフトには依然、配信とは異なる価値がある。見落としがちなのが保存・アーカイブ機能である。

 昨今指摘されるのが、配信契約の問題だ。膨大に見える配信サービスの作品も、視聴回数が少ないと契約が更新されない。今まであったはずの作品がある日突然ラインアップから消える現象がすでに起きている。

 例えば18年11月のAmazonプライムビデオのラインアップを見てみよう。『ご注文はうさぎですか?』『わが青春のアルカディア』『マジンガーZ』『魔法少女リリカルなのは』『潔癖男子!青山くん』などの配信終了が確認できる。いずれもかなりの有力タイトルである。

 手頃に見られるはずの配信なのに、どこを探しても存在しない作品が今後増えるかもしれない。それがもし自分にとってかけがえのない作品だったら……。確実に手元に残そうとすれば、やはりビデオソフトなのだ。ビデオソフトへの揺り戻しは、今後あるかもしれない。

 むしろアニメのビデオソフトの本当の問題は、多過ぎるタイトル数にある。先に触れたように、配信会社やゲーム会社、そして海外企業とアニメ製作に流れ込む潤沢過ぎる資金が、アニメ業界の制作能力を超える企画乱立を招いている。本来は企画の数でなく、作品ごとの予算が増えればいいのだが、多くの製作元は自分だけの作品が欲しいのでそうはならない。

 デジタルコンテンツ白書などによると、10年前の大人向けアニメのビデオソフトの市場は834億円だった。これに対する深夜アニメのタイトルは155本だ。これに対して16年の販売金額は509億円、タイトル数は266本。劇場映画を除外してはいるが、市場縮小に対して作品が急増したことで競争が激化したことが想像される。

 国内のビデオソフトメーカーも、赤字作品ばかりを抱え込むわけにはいかない。製作資金は配信や海外、ゲームから回収し、保存のためにソフトと言っても、ビデオソフトの発売予定が当初からない作品が今後現れる可能性もある。

 そうなれば動画配信もされず、リアルに保存するビデオソフトにもない状態になる。映像作品にとって、観客と接点を失うのは死も同然。日本アニメ文化の一部を失うことでもある。

 今後ビデオソフトの存在をいかに維持するかが、今後日本のアニメ文化において重要な課題になりそうだ。

著者プロフィール

数土直志(すど ただし)

ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。アニメーションを中心に映像ビジネスに関する報道・研究を手掛ける。証券会社を経て2004 年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立。09年にはアニメビジネス情報の「アニメ! アニメ! ビズ」を立ち上げ編集長を務める。16年に「アニメ! アニメ!」を離れて独立。主な著書に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』 (星海社新書)。


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