土肥: 首都高を運転していると、このビルって目立ちますよね。立方体の箱がいくつも積み上がっていて、丸い窓がたくさん並んでいる。外観を見るだけで「この建物はただ者じゃないな」と感じるわけですが、こうしてナカに入ってみるとやはりフツーではない。
部屋には、造り付けの家具が設置されていて、そこに家電が組み込まれていますよね。テレビ、ラジオ、電話、時計のほかに、オープンリールデッキ(リールに巻きつけただけで、カセットに入れていない磁気テープ)まである。扉を開けると、ユニットバスがある。いわゆるワンルームマンションのような形ですが、大きな違いはキッチンがないことと、丸い窓が開かないこと。46年前に完成したとは思えないほど斬新なデザインがあちらこちらで楽しむことができますが、当時はどういったコンセプトで建てられたのでしょうか?
前田: もともとこのビルは「サラリーマンのために」建てられました。いまは「働き方改革」が叫ばれていて、労働時間を減らして効率的に働くことはいいことだ、といった雰囲気が漂っていますが、当時は違う。朝早くから夜遅くまで働いて、家には帰らない。残業はこの部屋に持ち込む。こうしたライフスタイルに憧れた人たちが、この物件に魅力を感じていたのではないでしょうか。
そうした層をターゲットにしていたので、部屋にはキッチンがありませんし、洗濯機の置き場もない。なぜなら食事は外で済ませて、洗濯はコンシュルジュに頼むことができたから。
土肥: 洗濯物をコンシュルジュに預けるって、なんだか抵抗感があるなあ。
前田: 当時、このビルにはさまざまな人が働いていました。管理人、ルームキーパー、エンジニアなどのほかに「カプセルレディ」と呼ばれる人もいました。
土肥: カプセルレディ? ネーミングが気になりますが、どんなことをしていたのですか?
前田: タイプライターで書類を作成したり、英語を翻訳したり、コピーをとったり。カプセルで暮らす人たちのビジネスをサポートするレディが常駐していました。
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