モヤモヤ抱えるミドルへ 500人が人生相談に訪れた「昼のスナック」の秘密「ママ」に会ってきた(4/4 ページ)

» 2018年11月19日 07時00分 公開
[加納由希絵ITmedia]
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“素の自分”をさらけ出せる場

 60回も開かれた「スナックひきだし」は、どんな雰囲気なのだろうか。「生後3カ月〜80歳が来店した」というこの場では、世代や立場を超えた出会いが生まれている。

 冒頭で紹介した女性と経営者のエピソードのように、「普段はつながらないような人がつながる」。就職に悩む学生がいれば、おじさんやおばさんがあれこれアドバイスをする。個人事業主と大企業に勤める人が意気投合し、「一緒にプロジェクトを立ち上げよう!」と盛り上がる声も聞こえてくる。「もうすぐ大阪に引っ越すんです」という人に、現地の仕事を紹介してくれた人も。仕事の話ばかりではない。50代の男性同士が本を貸し借りする姿なども見られる。

 木下さんは「みんな勝手につながってくれる」と笑うが、つながりをそっとサポートしているのは、木下さんをはじめとするママやマスターだ。話を聞いて、「それ、○○さんが好きでしたよね?」などと、合いそうな人にさりげなく声をかける。そうすると、自然と会話が始まる。

 みんな、何を求めてここを訪れるのか。「安心して“素の自分”をさらけ出せる場なんだと思います」と木下さんは語る。「ここでは世代も肩書も関係ありません。自分と違う属性の人と話してみれば、偏見や誤解が解けて、学ぶこともあります。普段背負っている役割ではなく、本当の自分でいられる場になっているのでは」

 スナックひきだしのチャージ料は1500円。一方、昼からお酒を飲む人は多くない。場を楽しむために来ているのだ。大きな利益が出る事業ではないが、「マーケティングやプロファイリングの場」としても位置付ける。「コミュニティーの基盤をつくって、来てくれる人たちの将来のビジネスにもつながるとうれしいですね」

photo 木下さんは訪れる人たちの話を聞いて、助言をしたり、詳しい人を紹介したりする

 今後は、自分と同じように「人のつながり」をサポートする人の輪をどんどん広げていきたいという。「東京の他に、地方、海外と、世界に3つの拠点を持つことが私の夢です」。かつて住んでいたドイツや、出身の和歌山県での活動をイメージしている。

 「この『スナックひきだし』のように、どんな小さなことでも、何かを仕掛けるほど面白いことはないと思います。その面白さを伝えて、仕掛ける側の人を増やすサポートをしたい。小さな一歩でも、前に進もうとする人の背中を押していきたいのです」

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