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» 2018年11月22日 06時30分 公開

ショボいけど、勝てます。 竹島水族館のアットホーム経営論:“弱小”だった水族館の館長が「トヨタ本」から見つけた組織活性化のヒント (1/4)

休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館が、人口8万人ほどの愛知県蒲郡市にある。飼育員たちのチームワークと仕事観に迫り、組織活性化のヒントを探る。

[大宮冬洋,ITmedia]

ショボいけど、勝てます。 竹島水族館のアットホーム経営論:

人口8万人ほどの愛知県蒲郡(がまごおり)市にある竹島水族館は、お金なし、知名度なし、人気生物なしという、いわゆる弱小水族館だ。だが、条件面だけ見れば「ショボい」としか言いようのないこの水族館は、わずか8年前は12万人だった来場者数を40万人まで「V字回復」させた。その理由はどこにあるのか。個性集団とも言える飼育員たちの「チームワーク」と「仕事観」に迫り、組織活性化のヒントを探る――。


 トヨタカレンダーという言葉をご存じだろうか。トヨタグループでは、祝日は休日ではなく普通に出勤をし、ゴールデンウィークや年末年始に休みが多めに設定されている。そのため、トヨタ系の工場や営業所が密集している愛知県内では、祝日でもトラックなどの「働く車」が多く、土日は用がなくてもドライブしたい人々の自家用車が路上にあふれる。トヨタカレンダーを知らずして渋滞を避けた快適な生活はできない。愛知県民にとっては常識だ。

 竹島水族館の館長である小林龍二さん(37歳)も当然のようにトヨタ車に乗っている。そんな彼が2010年に主任飼育員になり、客数が低迷して閉鎖の危機にあった水族館の改革に乗り出した(小林さんによるV字回復ストーリーはこちら)とき、自然に思い出したのがトヨタの「カイゼン魂」だった。

 「以前に『カンブリア宮殿』(テレビ東京系列)でトヨタ元社長の張冨士夫さんが出ていました。会社をもっと良くして世の中に貢献するために、社員全員がまとまっているんです。あんなに大きな会社なのに……。すごいなと思いました」

phot 8年間で入館者数を3倍超に伸ばした竹島水族館。休日ともなればこの行列だ

 小林さんは、2008年に中途入社した旧知の戸館真人さん(38歳)とタッグを組み、タッチング水槽「さわりんぷーる」の新設や手書き解説板(POP)の導入などを進めていた。しかし、自分たちだけではなく飼育員全員の意識を変えて、もっと効率よく働いて創意工夫をする時間を生み出さなければ竹島水族館の未来はない。トヨタにヒントはないだろうか。書店で見つけたのが、トヨタ生産方式を体系化したことで知られる大野耐一氏に関する本だった。

phot 小林さんが買いそろえたトヨタ関連本。組織改革やスタッフの意識向上に悩んだとき、大野耐一氏の言葉が役に立った

 「うちの水族館でも使えると思ったのは、多能工という考え方です」 

 多能工とは、1つの技能や機械操作だけに特化した単能工ではなく、複数の異なった工程の作業を受け持つこと(多工程持ち)ができる技術者のこと。欠員や作業の遅れを柔軟にフォローすることができ、多品種少量生産の現場において生産性向上に貢献する。

 小林さんによれば、水族館では1つの水槽や生物を複数の飼育員が担当するチーム制が主流だ。未熟な飼育員がいても他の人がカバーできるために、生物を死なせてしまうリスクが減る。また、先輩が後輩を手取り足取り教えることもできる。しかし、デメリットも大きいと小林さんは指摘する。

 「責任が明確ではないので、うまくいかないことがあると他人のせいにできる仕組みです。『真面目なあいつがやってくれるだろう』と作業に手を抜くこともできます。結局、チーム制だと後輩は何も考えずに先輩に教えてもらえればいいし、先輩は指示通りに動いてくれる後輩がいるので楽なのです」

phot 若き館長の小林さん。「みんなで知恵を出し合ってこの水族館をどんどん良くしていきたいです」
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