凡人の起業法 40カ月でKDDIグループに事業売却できた社長の秘密凡人だから有利な点がある(1/3 ページ)

» 2018年11月28日 13時30分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 「僕はイケてる起業家じゃないんですよ。世の中でイケてる起業家はソフトバンクの孫さんであり、gumiの國光さんであり、ビジョナリー。ビジョンがあって数字もついてくるのがイケてる起業家」

 小原聖誉さんは、スマホ向けゲームメディアを運営するAppBroadCastを起業し、わずか40カ月後にはKDDIグループに売却を果たした起業家だ。売却金額は非公開だが、現在はエンジェル投資家として活動。14社に出資し、そのうちの1社アクリートはIPOを果たしている。

 しかし、先輩格の起業家たちをビジョナリーだと褒める一方で、自分自身のことを“凡人”だと何度も繰り返す。小原さんに“凡人”ならではの起業法を聞いた。

小原聖誉さん

凡人のほうが起業に向いている理由

 もともと起業しようと思ったきっかけは、直前まで勤めていた会社の業績が悪化し、起業せざるを得なかったからだという。サラリーマンとして活躍できる気もしないし、そもそもどこかが採用してくれるかどうかも分からない。そんな状況の中、2013年1月に起業を果たした。

 小原さんが取った方法は、自らを凡人と位置づけるものだ。

 「中途半端に優秀だと、自分がやりたいことをやってしまう。できると思ってしまう。ぼくは自分のことを信用していない。自分が凡人だから、自分のことを信用したら(事業が)死んでしまう。だからマーケット重視だし、目の前の人とのやりとりを重視する。自分のような凡人と会ってくれることを感謝するんです」

 世の中によくある起業家のイメージは、世界を変えるようなビジョンを持って、そのビジョンに賛同してくれる投資家や社員を集めて素晴らしいプロダクトを提供する、というものかもしれない。メディアもそうして成功した起業家を華々しく紹介する。

 しかしそれは、成功すればリターンが大きい一方、リスクも大きいやり方だ。小原さんの起業は、キラキラしたビジョンも事業計画もなし。一方で、戦う土俵、マーケットについては最大限こだわった。

 「起業したときに、自分たちのことをスタートアップだとは思っていなかった。単に成長している市場で事業をやったほうが失敗しないと思った。世界をこう変えたいというような素晴らしいビジョンはなかった」

 ニッチな成長市場。小原さんはそんなマーケットを選んだ。これまでモバイルインターネット業界で過ごしてきた彼にとって、パズル&ドラゴンズが登場した直後のスマホゲーム市場を狙うのは当然の流れだった。

 しかし、「iPhoneゲームは優秀な人が多そう」ということからAndroidゲームにフォーカスを当てる。3カ月の情報収集期間を経て起業。それから4カ月後には、戦略的にAndroidを推進していたKDDIと業務提携を結ぶというスピード展開だった。Androidは、iPhoneよりもニッチでプレーヤーが少ないからこそ、小さな会社だったが存在感が出せた。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.