アジア攻めるNetflix、日本作品は生き残れるか 首脳部に直撃 映像ジャーナリスト数土直志が問う(4/7 ページ)

» 2018年12月10日 07時00分 公開
[数土直志ITmedia]

日本の出版社買収に強い関心

 ここにNetflixのオリジナルコンテンツにおける強みがある。ラインアップの多様さは、従来の意味での多様性さとは全く異なる。あらゆる文化が含まれ、それが同時多発的に世界発信される。ジャンルだけでなく発信地が多様化している。

 これはインターネットだから可能になる。ヘイスティングス氏によれば、配信はテレビと異なり、放送できる番組の枠に制限がない。それだけにいままで世界に届けられなかった番組も配信できるのだ、と。

 Netflixの世界進出は、インド、さらに中近東やアフリカも視野に入れればまだ広がっていくだろう。それでも北米市場はすでにマックスに近づきつつある。加入者数の伸び率は鈍っている。さらに今後ハリウッドメジャーの配信への本格参入があれば、競争は激化する。

 そうした時に多くの企業が考えるのは多角化だ。イベントや商品化、もちろん定額見放題以外の配信サービスもあり得る。

 こうした疑問をインタビューでヘイスティングス氏に投げかけてみた。答えは意外なほどシンプルだった。「得意なことしかしない」、故にそうした多角化ビジネスに関心はないという。

 一方で興味深い発言もあった。コンテンツ担当のテッド・サランドス氏に、17年にNetflixが行った米国のコミック出版社ミラーワールドの買収意図を聞いてみた。コミック出版は、現在のNetflixにとって異業種だからだ。

 「ミラーワールドとのビジネスには大きな成果がでており、満足している」との答えだった。さらに日本には魅力的な出版社が多いがこれに関心あるかとも聞いたところ、驚いたことにこの答えは「イエス」であった。

 配信ビジネスから離れることはないが、番組を強固にするシステム、つまり原作確保の点ではそうした協業は否定しない。これは日本のコンテンツ関係者にとっても興味深いだろう。

 実際に日本の有力出版社を買収するハードルは大きい。しかし日本のアニメ、実写映画やドラマが、マンガや小説といった豊富な出版文化に支えられていることにNetflix側も気づいており、そうした分野にはシナジー効果があるとも考えていることになる。

 Netflixの「自社の映像を世界の隅々にまで届ける」という理念は素晴らしい。世界のカルチャーを間違いなく豊かにするだろう。

 それでもNetflixは気前よくお金をばらまくだけの慈善家ではない。目的に合致しなければ、協業はない。日本の映像業界にとっては、天使にも悪魔にもなりうる。Netflixを活用できるかどうかは、日本側次第なのだろう。

 Netflixを始めとする映像配信サービスの登場が世界の映像ビジネスを変えつつある。グローバルな流通を持たなかった日本に大きなチャンスをもたらしている。

 これを効果的に利用するには、相手側の理念・戦略を理解し、さらにそこに自身の理念・利益を上乗せする。そのうえで相手を納得させる。そんな知略が求められている。もしWin-Winの関係を築くことができれば、アニメはもとより実写にも大きなチャンスが広がるはずだ。

 ここからはこうした日本の状況も踏まえて、シンガポールで行ったNetflixのコンテンツ最高責任者のテッド・サランドス氏のインタビューをお伝えする。

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