このような「勘違い」は、実は「女性の活躍」も全く同じである。
14年、日本経済研究センター予測・研修グループの北松円香氏が、「フランスにおける子育て支援」という講演で以下のように述べている。
『フランスの世論調査を見ましても、意識変化が 30 年かけて起きており、母親が希望したならば働くべきかという点については、1979年では肯定意見は少なく30%程度ですが、2012 年には回答の半数を超えています』
では、フランスの世論はなぜ変わったのか。今の日本のように、専業主婦の皆さんが激しいバッシングにあって、その罪悪感を払拭(ふっしょく)するために社会に飛び出したのかというと、間違ってもそんな話ではない。
女性が家事や育児をしながら働くことができる「環境」の整備が進んだのである。その証が出生率の向上だ。北松円香氏もこう述べている。
『合計特殊出生率と女性の就業率の間には、1980年時点では女性が働いていると出生率が低い という関係が見られていました。ところが2010年ではこのような傾向が無くなっており、むしろ女性が働いているとやや出生率が上がっていくような関係になってきています。中でも、イギリスやスウェーデンなどある程度の経済規模をもつ先進国にこのような傾向が見られておりますが、特にフランスは合計特殊出生率が2に達しております』(同上)
なぜ先進国の女性たちは就業率が上がっていく中でも、子どもを産もうという気になったのか。1980年から2010年にかけて、「母親」に対するさまざまな社会全体のサポートが充実していった、としか考えられない。
では、翻って日本を見ればどうか。待機児童問題や、「ワンオペ育児」なんて言葉があるように、女性が家事や育児をしながら働くことができる「環境」は整っていない。
にもかかわらず、「女性の活躍」という美辞麗句で、母親たちを半ば強制的に社会へと送り出している。「環境」が整っていないのだから当然、心身を病む母親もあらわれる。先ほどの外国人労働者と同様で、「使い捨ての労働力」が増えるだけなので、経営者側は賃金や待遇を改善する理由が見当たらない。つまり、ブラック企業が肥えるだけなのだ。
環境整備をしないくせに、「働かないのはおかしい」「怠けてる」と罪悪感を植えつけて、明らかに子育てや家事の足を引っ張るブラック労働に就かせようとする。この“無言の圧力”こそが、世の専業主婦の皆さんが感じている「生きづらさ」の正体なのだ。
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