政府が副業・兼業を推進するようになったこともあり、最近ではフリーランスで働く人のビジネス環境が話題になるケースが増えてきた。ネットでよく目にするのは、紙の請求書しか受け付けず、PDFの請求書に切り替えたいとお願いすると、仕事を切られてしまうという問題である。
説明するまでもないが、紙に押印した請求書でなければ法的に成立しないということはない。PDFなど電子的な請求書であっても有効である。PDFの請求書を受け付けないのは、請求書を受け取る側が紙で管理しているなど、すべて紙にしてもらわないと困るといった事情があるものと考えられる。一部にはPDFの請求書が無効であると勘違いしている可能性もあるだろう。
仕事を受ける側は、顧客企業のビジネスプロセスにできるだけ合わせるというのが一般的なビジネスマナーではあるが、フリーランスの場合、オフィスの環境が企業とは異なっている。インクジェットの小さなプリンタが自宅にあるだけというケースでは、紙に印刷して封入するだけでも結構な手間となるだろう。
紙での請求書作成や発送を代行してくれるサービスもあるが、その分だけコストは増えてしまう。多くの人が副業を持つ時代にシフトしていることを考えると、仕事を発注する企業側にも配慮が必要である。
もっともこの話は、仕事を受けるフリーランス側の問題でもある。仕事を受注する側は、どうしても立場が弱くなるため、顧客の要望はすべて丸呑みしがちである。だが請求書の書式についてまでも顧客の要望を聞かなければならないのだとすると、価格面ではさらに無理な要求を押し付けられている可能性が高い。
フリーランスとはいえ、れっきとした事業であり、高い付加価値を提供できなければビジネスとして継続できない。厳しいようだが、顧客からの非合理的な要求は断れるくらいでなければ、プロとして失格である。発注側と受注側がもう少し合理的になれば、ビジネス環境は最適化され、諸外国と比べて低く推移している日本の生産性も少しは上昇するだろう。
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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