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「ドラクエ」前プロデューサーが考える組織論――切り開いた道は後進に譲り自らは荒野を歩くスクエニ取締役・齊藤陽介の仕事哲学【前編】(3/5 ページ)

» 2018年12月21日 08時30分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

自ら後進に道を示す

――ただ、一般的には基幹事業の統括にベテランを据え、若手には新規事業を任せるのが定石のようにも思われます。

 確かに新しいことを作るのは、若い人たちに任せがちだと思います。しかし、まだ自信のない若者にいきなり最前線に立たせ、右も左もよく分からないところを開拓しなさいというのは、実は簡単ではないのです。そこで夢破れてしまい、せっかくの才能が次に続かなくなってしまうことを、私は望んでいません。

 むしろ私がいま関わっている「GEMS COMPANY」のような新規事業こそ、ベテランが後進に道を示すために、私のような人間が自分の手でやるべきだと考えています。「若いんだから柔軟な発想で挑戦してみなさい」と口で言うのは簡単です。ですが、それは経験を積んできた、われわれ「おっさん」たちのほうが、できることが実は多いのですよ。

――基幹事業を若手に担わせるメリットはどんなところにあるのでしょうか。

 まずビッグタイトルを担う際には、「商品」として売らなければならないというプレッシャーが強くあります。しかしその一方で、知名度もあり、固定ファン層もいるので安心感があるのも確かなのです。「商品」として考えなければならないことが、新規タイトルよりは少ないのです。あとは純粋にどうすれば面白いものが作れて、大きな開発組織を回して「商品」に作り上げていくか……。このような環境こそが、これ以上ない育成の場だと考えています。そしてこうした最高の場が、当社には何タイトルもあります。

――確かに、「ドラクエXI」では齊藤さんのほかに、30歳前後の2人の若手プロデューサーを据えたことで話題を集めました。

 「ドラクエXI」はプレイステーション4版とニンテンドー3DS版の2種類があるのですが、それぞれに30歳前後の若いプロデューサーをつけました。そしてこの2つをまとめる感じで私もプロデューサーを務めたのですが、あくまでこの3人の関係は並列です。普通に考えれば私がプロデューサーで、この2人をアシスタントプロデューサーにするのが一般的だと思いますが、私はそれではダメだと考えました。

 「アシスタント」という名前が付いてしまうと、自分の裁量のない部分で「やらされ感」がどうしても見えてきてしまうからです。大変だと思いますが、「何かあったら自分が責任を取るから、しっかりとプロデューサーとして立ち回りなさい」と話をして、「ドラクエXI」の体制は始まりました。

――「何かあったら責任は取るから」という言葉は素晴らしいですね。以前『半沢直樹』というドラマで「部下の手柄は上司の手柄」というせりふが話題になりましたが、日本の大企業では縦割りの弊害がいまだに残っているように思われます。なかなかそんなことを言ってくれる上司はいないですね。

 私にとっては「それが普通かな」という感じです。結果、その育成も兼ねてやってきた結果が出たので、「ドラクエXI」の海外版や、ニンテンドースイッチ版も若いプロデューサーに一任しており、今に至ります。

phot PlayStation 4版「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」のフィールド(c) 2017 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.
phot 「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」(c) 2017 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX All Rights Reserved.

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