「南青山の児相反対派」をボコボコに叩く、そんな風潮がよくない理由スピン経済の歩き方(3/6 ページ)

» 2018年12月25日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

極めてオーソドックスな「住民感情」

 だが、住民からわきあがったのは猛烈な反対だった。その主張の中身は、南青山の反対派住民に丸かぶりである。

 「子どもが無断で外出したり、子どもを連れ帰ろうと親が押しかけたりして、住民に危害を加えないか」(朝日新聞 2016年10月3日)

 もちろん、建設予定の児相と、居住エリアは出入り口も違うので、児相の利用者はマンションエリアには立ち入ることはできない。だが、敷地内の駐車場や屋外の通路は共有する。問題のある子どもや親とは、道ですれ違うのも怖いというわけだ。

 また、南青山の反対派住民は「ほんの一部」で大多数は児相が来ることに賛成というが、このタワマンはそんな空気ではなかった。全360世帯からなる「自治体組織のアンケートでは、6割超の世帯が反対と答えた」(朝日新聞 2016年12月20日)という。

 なんて話をすると、「それは同じ建物内だからだ! 普通の住宅地だったら反対するような冷たい人はいないはずだ」とか顔を真っ赤にして怒る人もいるだろうが、残念ながらそれは日本の「醜悪な現実」から目を背けているだけだ。

 例えば、神奈川県横浜市では市内に4カ所の児相があるが、その中の1カ所に一時保護所がなかった。そこで2011年にその児相内に新たに整備をつくると公表した。建物は区の総合庁舎で、もともとあった児相内につくるのだから問題ないような気もするが、近隣住民は納得しなかった。

 「約半年間で説明会を5回開いたが、地元町内会は計画の撤回を求める陳情書を市長に提出。反対署名は2600人分を超えた」(朝日新聞 2016年10月3日)

 反対理由は南青山や大阪市とまったく同じで、市の資料にも以下のような住民の声が掲載されている。

 「非行を行なった児童が一時保護されるのが心配である」「地域に対して閉鎖的な建物ができることに反対である」(横浜市北部児童相談所一時保護所の整備について 地元説明会で出された主な意見)

 このようなケースは日本中で山ほど起きている。つまり、虐待を受けた子どもなどが身を寄せる「一時保護所」のある児童相談所を嫌がって、どうにか生活圏から追い出そうとするのは、日本社会では決して珍しい話ではなく、極めてオーソドックスな「住民感情」なのだ。

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