東京と大阪の“抗争”が激化 今年も高級食パン戦争から目が離せない長浜淳之介のトレンドアンテナ(3/5 ページ)

» 2019年01月06日 05時00分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

大阪勢は東京進出を加速

 一方で、大阪から東京へ進出する動きも、決して弱まったわけではない。

 まず04年に一本堂が進出し、住宅街を開拓して首都圏で50店以上を展開している。一本堂は他の専門店が2斤を基本サイズにしているのに対して、1斤を基本としており、値段も安めだ。デイリーに買える「ちょっとした贅沢」を狙っている。商品に癖がなく、特に「生食」をうたわない独特の路線を貫いている。

 乃が美も首都圏に十数店を既に展開しているが、18年11月にオープンした麻布十番店が東京への初出店だった。麻布十番店には、連日のように行列ができていて大きな反響を呼んでいる。耳までおいしく焼かずにそのまま食べることが推奨されている「生」食パンは、最高級のカナダ産小麦粉を使い、卵は使わず、生クリームの自然な甘みを生かす製法で、乃が美が全国的に流行らせたのは事実。「Yahoo!検索大賞」の食品部門賞を17年、18年と2年連続で受賞した。

 乃が美では類似品が多く出回るようになったとして、『高級「生」食パン』の名称を商標登録した。

photo 一本堂 杉並高円寺店(出所:高円寺庚申通り商店街公式Webサイト)

乃が美より前に存在した「高級食パン専門店」

 ところで、乃が美のような耳までやわらかいタイプの商品を売る、高級食パン専門店がなかったかといえば、そんなことはない。元祖は神戸市灘区の「地蔵屋」である。地蔵屋は02年にオープンしており、当時口コミやネット通販で徐々に人気が出て、一時期は売り切れていることが多く、「幻の食パン」と言われていた(店舗は15年に移転している)。地蔵屋の屋号は、阪神淡路大震災で全壊した地蔵市場に由来している。神戸復興への店主の思いが知られよう。

 また、卵や添加物不使用の耳までやわらかい無添加食パン専門店「点心」が08年、兵庫県尼崎市の武庫之荘に誕生。中華の料理人だった創業者が一念発起して開発したとのこと。現在4店あり、18年10月には荒川区に東京1号店をオープンしている。

 つまり、乃が美が登場する前に、兵庫では地蔵屋と点心がマニア的な人気を得ており、耳までやわらかいタイプの食パンの存在は、大阪まではかなり知られていたはずなのである。乃が美はそのタイプの食パンに高級「生」食パンという絶妙なネーミングをつけて、全国展開できるチェーン化に成功したと言えるだろう。

 兵庫勢からは、16年にオープンした芦屋市の「Panya芦屋」が低温長時間熟成による完全無添加最上級食パンをうたっている。Panya芦屋は6店あるが、17年11月に世田谷区の駒沢公園付近に出店して、東京進出を果たした。その後も2店、世田谷区内にオープンしている。さらには、18年11月、「ラゾーナ川崎プラザ」(川崎市)に新店がオープンした。

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