東京と大阪の“抗争”が激化 今年も高級食パン戦争から目が離せない長浜淳之介のトレンドアンテナ(1/5 ページ)

» 2019年01月06日 05時00分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

 2018年に大ブレイクした高級食パン専門店の勢力図に異変が起きている。18年末には「俺のベーカリー」や「銀座に志かわ」といった東京の高級食パン専門店が相次いで大阪への進出を決めた。

 大阪は今や全国規模のチェーンに成長した「乃が美」(111店)や「一本堂」(113店)という高級食パン2大ブランドを生んだ、食パンの聖地。乃が美は13年10月に上本町、一本堂は同年3月に都島と、それぞれ大阪市内で創業した(一本堂を経営するのは東京都新宿区のIFC)。これまでにないやわらかでなめらかな食感と、何も付けなくてもおいしい味わいが特徴となっている。両者は2斤で600〜1000円ほどの高級食パン数種類のみを売っているが、朝食にもおやつにも贈答にも使える、焼きたてパンの専門店という新分野を開拓した。

 これまでは、大阪でブレイクした専門店がこぞって市場の大きい首都圏を狙って進出してくるパターンが続き、東京勢は刺激を受けて次々に新規創業するという構図であった。

 ところが東京の専門店の間では、「本場、大阪で認められてこそ」と、あえて高級食パンに食べ慣れた、味にうるさい大阪の消費者の声を聞きたいとの風潮が出てきたのだ。高級食パンに対して日本一意識の高い、広大な京阪神を中心とした関西市場に魅力を感じているのだ。

photo 俺のベーカリーが販売する銀座の食パン〜香〜と〜夢〜(出所:俺の株式会社公式Webサイト)

「俺の」高級食パンが関西に進出

 「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」で知られる俺の株式会社(東京都中央区)は、16年11月、恵比寿ガーデンプレイス(東京都渋谷区)に「俺のベーカリー&カフェ」をオープン。高級食パン市場に参入した。

 俺の株式会社は安田道男副社長や能勢和秀総料理長といった幹部社員の大量離脱で、一時期会社の体制が崩れ、目標としていた上場やニューヨーク進出はもちろん、新規出店もままならない状況にあったが、俺のベーカリー&カフェがヒットして持ち直してきている。

 その俺の株式会社は、18年12月13日、大阪・心斎橋に「俺のビストロ&ベーカリー」をオープンした。俺のベーカリーは関西初出店で、8店目。これまでは全て首都圏に俺のベーカリー&カフェ6店と、俺のグリル&ベーカリー1店を展開してきた。

 俺のビストロは、フレンチやイタリアンといった垣根をなくし、食事を気軽に楽しめるカジュアルレストランの新業態。俺のベーカリーでは看板商品の「銀座の食パン〜香〜」などを購入できるだけでなく、料理の付け合わせとしても焼きたてパンが楽しめる。

 俺の株式会社が唯一、大阪に構えていた「俺のフレンチ・イタリアン 松竹芸能角座広場」は、道頓堀角座の移転に伴い、18年7月に閉店していた。約5カ月のブランクを経て、バージョンアップした形で復活したと見てもいいだろう。同社の店は、立ち食いから着席して食べるスタイルにどんどん変わっているが、この新店も立ち食いではなく、オール着席の店である。

 分厚く切った銀座の食パン〜香〜をベースにした「フレンチトースト」は、パンを48時間、卵と牛乳を使ったソースに浸して焼き上げた労作だ。ふんわりとろけてもちもちとした独特な口解け感を持っており、早くも関西のカフェマニアの間で評判になっているという。

 俺のベーカリーは立ち上げの際にパリの有名ベーカリー「ドミニク・サブロン」出身で、現在東京・神楽坂のベーカリー「パン デ フィロゾフ」を経営する榎本哲氏のプロデュースを受けている。併設のカフェでは、グループのミシュラン星付きレストランで修業したシェフたちが考案したサンドイッチなどを提供してきた。そうした蓄積があって「俺のビストロ&ベーカリー」が成立している。俺の株式会社は高い料理の原価率を、量産できる食パンの収入でカバーして利益を出すという、立ち食いに代わる新しいビジネスモデルを確立したようだ。

photo 俺のビストロ&ベーカリー 外観 (出所:俺の株式会社公式twitter)
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