いよいよ4月から「働き方改革関連法」が施行される。働き方改革に関しては、特にフリーランスなどの「雇われない働き方」について多くの課題が指摘されているが、それらを解決する上で有益な視座を提供してくれるのが厚生労働省「雇用類似の働き方に関する検討会」でも研究成果を発表した労働政策研究・研修機構の主任研究員、山崎憲さんだ。
記事の前編(「『欧米に立ち遅れている』という認識は幻想 日本的雇用の“絶対的長所”にも目を向けよ」を参照)では、欧米に比べて遅れているといわれる日本企業の働き方や日本的雇用慣行の長所を見直すことの重要性を指摘してもらった。
今回は、日本における「雇われない働き方」の問題点や今後の望ましい展望を聞く。果たしてフリーランスという働き方に未来はあるのだろうか。米国での事例をもとに語ってもらった。
――山崎さんは著書『「働くこと」を問い直す』(岩波新書)で、請負やフリーランスといった働き方について、職場というよりどころがない点と、企業内の職業訓練を受けられない点を課題として指摘されています。この課題を克服する試みはあるのでしょうか。
米国での事例にヒントがあります。その典型が「フリーランサーズ・ユニオン」というNPOの取り組みです。
米国では1990年代から、新聞業界の再編と縮小が始まりました。その流れの中で社員新聞記者からフリーランスになった人たちが集まり、フリーランスの権利擁護をするフリーランサーズ・ユニオンが2000年代初頭にできたのです。今では、全米で30万人の会員を集めるまでになりました。最初に核になったのはメディアで働く人たちでしたが、その後は金融アナリストやプログラマーをはじめ、さまざまなフリーランスが加入しています。
サンフランシスコにUpwork(アップワーク)という人材会社があります。日本で同様のサービスを提供しているクラウドワークスよりはるかに大きく、いろんな国々の会社にいろんな国々の人たちをネット上で紹介しています。このアップワーク社がフリーランサーズ・ユニオンと提携して、アップワーク社で契約するフリーランスとして働く人たちに健康保険や年金、相談窓口のあっせんもしているのです。
フリーランスが困るのは、発注者が口約束しかしないで、「言った・言わない」の争いになったり、約束の報酬額が払われなかったりすることです。そこでフリーランサーズ・ユニオンは、ニューヨーク州とニューヨーク市でロビイングし、彼らの権利を守る条例を作りました。情報の共有に加えて、職業訓練の機会も提供しているのです。
さらにフリーランサーズ・ユニオンとは別に、日雇い労働者、家政婦、介護労働者、タクシーの運転手たちは、それぞれの組織にまとまっています。こうした働き方をしている人が多い移民の組織もあるのです。このように、雇用されないで働く人たちの組織が何らかの形で作られ、その組織に所属することによって、ある程度は守られているわけです。
――日本と比べると非常にスケールが大きいですね。日本ではこの先、どんなことが問題になるのでしょうか?
確かに日本よりも規模は大きいと思いますね。私はフリーランサーズ・ユニオンのオフィスを見てきたのですが、大きなビルの2フロアを借りていて、まるでIT企業のようにおしゃれでした(笑)。
一方で、日本でも、社外の人間に仕事を外注する「アウトソース化」の動きは加速しています。かつては単純な仕事であっても、自社の社員にさせていましたね。単純な仕事からより複雑な仕事へ、というように段階的に教えていくことで、社員を育てていたのです。これが企業内の職業訓練としても機能していました。そうすることで会社から離れられなくしていたわけです。
しかし、そのパターンとは違うアプローチが始まっています。単純な仕事はAI(人工知能)にやらせるか、もしくはアウトソースをしてしまうというアプローチです。「難しい仕事は社内の人間にやらせ、そうでない仕事はAIにさせるかアウトソースする」となると、会社の外にいる人は難しい仕事を教わる機会がなくなってしまいます。そうすると、会社の中と外とが連結しなくなるという問題が発生しますね。
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