政府の「働き方改革」とも関連し、2017年から「雇われずに働くスタイル」であるフリーランスを美化する報道が目立つ。筆者もフリーランスで働く1人としてうれしい気持ちもある反面、実際には課題も多く、「そう単純な話ではないのでは」と言いたくもなる。
そんな中、「つなぐ」と「アウトソース」をキーワードに、問題整理の座標軸を提供してくれるのが厚生労働省「雇用類似の働き方に関する検討会」でも研究成果を発表した労働政策研究・研修機構の主任調査員、山崎憲さんだ。「雇われずに働くスタイル」は「雇用類似の働き方」とも呼ばれているが、制度的な課題も指摘されている。山崎さんに人的資源管理(人事労務)を巡る海外の情報を織り交ぜながら、日本政府が進める「働き方改革」の焦点を聞いた。
――「雇われない働き方」をもてはやす報道が増え、政府でも雇用関係によらない働き方や雇用類似の働き方についての検討が進んでいます。その前提には、こうした働き方が増えているし、今後も増えるだろうという認識があると思うのですが。
確かに雇われない働き方が今後も増えるというイメージはあると思いますが、実はそうでもないことが分かってきました。そうした働き方に関わるビジネスを仕掛けている企業やシンクタンクの言説と、現実との間には乖離があるのです。
17年5月、米国の連邦労働省が調査を実施しました。例えばUberの運転手のような働き方では健康保険や年金に入ることができません。そういう人が増えてくると困るといった問題意識から、「contingent alternative(臨時・代替)雇用調査」が実施されました。Alternative(代替)契約には派遣、呼び出し労働、請負、フリーランスなどが入ります。
調査の結果がどうだったかというと、フリーランスを含む請負労働者は1060万人で就業人口の6.9%であり、前回調査した05年の7.4%と比べ、何と0.5%も減っていたのです。6.9%が多いかどうかという議論はあると思いますが、ドカンと増えていると思ったら実際には増えていなかった。「これからは雇用ではなくインディペンデント・コントラクター(独立契約者、以下IC)の時代なんだ」と報じてきた米国メディアも驚きをもって報道し、一気に論調が冷えたのです。
――雇われない働き方をしている人は増えていると日本でもけっこう聞くのですが、米国では増えていなかったのですね。
そうなのです。この現象を読み解く1つのポイントは、日本的な言い方でいう「シェアリングエコノミー」です。欧米では、政府も含めギグエコノミー(Gig Economy、ネットを介した単発の仕事)と言うようになってきています。ギグエコノミーは、例えばスマートフォン(スマホ)のアプリを通じて、サービス提供者(例えば運転手)と利用者(乗客)とを瞬時につなげるようなものをいいます。
かつてシンクタンクなどは、ギグエコが増えることで、「新しい市場が生まれてくる」と言っていました。ですが、実際には政府が施策としてギグエコを後押しした国は多くなく、全面的に後押ししたのは中国くらいだったのです。ギグエコがIC、フリーランスの存在感を膨らませていました。
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