――日本的雇用を壊すだけでは何も生まれないということですね。
そう思います。裏を返すと、なぜトヨタが世界で20位に入る競争力を持ち続けているのかを分析することが必要だと考えています。
その研究をしているのが、藤本隆宏さんという東京大学で生産管理を研究している先生(東京大学大学院経済学研究科教授)です。著書『能力構築競争 日本の自動車産業はなぜ強いのか』(中公新書)では、働いている人同士に横串を通し、部門や企業の違いを超えて情報をきれいに同期させていく日本企業の優位性を指摘しています。情報の同期がきれいにできているから、最終的な生産物の品質が良く、生産性も高いのだと説いているのです。その研究は、米国やEUでもよく知られています。
――藤本先生には以前取材したことがあり、私も強く触発されました。
第4次産業革命も、ビジネスの場を提供する「プラットフォームビジネス」も、実はこれまで日本企業が培ってきたものを応用しているのです。米国の企業では、機械化を進めることによってかえって生産性が下がってしまったという歴史があります。
1980年代、かつてゼネラルモーターズ(GM)はマイクロエレクトロニクス(ME)化を進め、旋盤や組み立て機械にMEを組み込むことによって、「ほぼ自動化率100%」の工場をいくつか作りました。ですが、実際にやってみると生産性も品質も下がってしまったのです。つまり機械だけではできない部分が、実は多かったということが明らかになったわけです。
一方、日本の場合はあえて自動化率を下げ、機械と機械との間を人間がつないでいました。「つなぐ仕組み」に秀でているのは日本の製造業の特長だったのです。際立ったのは関連企業、下請企業も含めた情報を同期する度合いの高さでした。何しろ、会議室でも、ゴルフ場でも、飲み会でも、どこでも情報を同期することができるのです(笑)。
第4次産業革命では、日本企業がやっていた「人間によるつなぎ」の部分を、かなりAIによって代替できるんじゃないかと考え始めたのです。日本企業の特長である、人間による「つなぐ仕組み」に追い付きたいという意味での第4次産業革命、という部分もあると考えています。
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