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「欧米に立ち遅れている」という認識は幻想 日本的雇用の“絶対的長所”にも目を向けよ労働政策研究・研修機構 主任調査員に聞く(前編)(4/6 ページ)

» 2019年01月08日 06時00分 公開
[北健一ITmedia]

欧米では本当にワークライフバランスが整っているのか

――欧米ではワークライフバランスがしっかりしていて休みもたっぷり取れると聞きますが。

 よくそう言われていますが、実際には欧米でも長時間働いている人はいるのです。

 例えば米国のある医薬品会社には2パターンの社員がいます。1つは、朝6時に出社して午後3時くらいに帰っちゃうパターン。もう1つは、朝10時頃出勤して、何時までいるか分からないというパターンです。後者は、米国で働いているけどフランスから来た人などがいます。つまりグローバルで働いている人は皆、日本と同様にかなりの程度、プロジェクト単位で長時間の仕事をして、その中で評価されているのです。

 今起こっているのは、前者の「朝6時に出勤して午後3時に帰る人たち」が会社の中から徐々にいなくなってきているということなのです。では逆に、なぜ今でも医薬品メーカーには前者のような働き方をする人が残っているのでしょうか。理由は、医薬品の開発期間は最短で10年もかかるからです。そうすると10年間はなかなか体制が変えられないのです。

 ところが例えばIT産業やゲーム業界は、3カ月単位で新しい製品やゲームを作りますよね。産業用ソフトウェアの開発もスパンは短い。一方、自動車の開発スパンは1年半ほどですが、1年半ではさすがに消費者は車を買い替えてくれません。だから、モデルチェンジのサイクルは5年くらいになっています。

産業構造の変化で高まる「アウトソース化」

――産業の変化の速度が上がることで働き方も変わってきているということでしょうか?

 その通りです。産業にもよりますが、これまでの企業の在り方も変わってきています。産業構造の変化が激しくなることによって、企業も短期間に変化を繰り返しているのです。すると、ムダなものを外に出したいということで、簡単な仕事を会社の中から外に出す傾向もかつてなく高まっています。アウトソース化を進めるだけでなく、RPA(Robotic Process Automation、ロボットによる業務自動化)の導入も同時に進んでいるのです。

 そうした変化は産業の競争環境に大きく拠っているので、十把一からげでは語れませんが、IT産業中心でいくならば、本体はなるべくスリム化して他の部分はアウトソースしていく方が効率的なのです。一方で会社の本体に残す人たちは、企業秘密を守りながら長く働いてほしいですから、報酬も福利厚生も厚くしていますね。

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