「過去20年間のうち金融界が発明した有益なものは、せいぜいATMくらいだ」
2008年のリーマンショックが起こった後、かつてのFRB議長ボルカーはそう発言した。ボルカーは金融工学に否定的なことで有名で、この発言もリーマンショックの一因となった金融工学を非難するものだ。とはいえボルカーが、非難の引き立て役としてATMを選んでいることは興味深い。いうまでもなくATMとは、現金を引き出したり預けたり振り込んだりする、あの箱型のでかいマシンのことだ。
ATMは身近に多く設置されており、いまさらありがたみを感じにくいものかもしれない。だがそれはボルカーさえ認めるほど素晴らしく有益なものだ。
日本銀行によると、日本の現金の量は、17年末時点で紙幣が107兆円、貨幣が5兆円、合わせて112兆円ほどだ。各国での現金の使用の度合いを表す指標に、現金量とGDPの比率がある。17年だと、日本の名目GDPは549兆円なので、この比率はおよそ20%(112 / 549≒0.2)ほどだ。ハーヴァード大学のケネス・ロゴフ教授は、主要29カ国の「現金/GDP比率」を調べている。彼によると日本はこの比率が非常に高く、調査対象の29カ国で1位だそうだ。ユーロ圏は10%ほど、米国や中国は8%以下、北欧は概して低く1〜3%程度とある。
しかしである。
そんな日本でも、お金をすべて現金で所有している人は、ほとんどいないはずだ。多額の現金を自宅に置いておくと、紛失しやすいし、盗難されやすいし、災害でなくしやすい。現金の保管コストは高い。
だから大抵の人は、まとまった現金が手に入ると銀行に預ける。よほど金額が大きくなければATMで入金する。
当たり前のことを言うようだが、電子情報の数字は、実体のあるモノではなく、電子空間のデータである。現金大好き日本でも、このお金の形態は非常に好まれている。個人による日本国内の銀行への預金額は、各行の合計で459兆円を超している。一般法人や公的機関による預金も合わせると775兆円を超す(日本銀行 預金者別預金18年3月)。いま金利はほとんどゼロだから、利息目当ての預金ではないだろう。巨額のお金が、現金という形をとることを避けられている。
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