倒産寸前の町工場がタオルで大逆転! ヒットの秘密は「糸」と「伝え方」累計680万枚(1/5 ページ)

» 2019年02月14日 07時30分 公開
[加納由希絵ITmedia]

平成のV字回復劇場:

 戦略ミス?競合の躍進?景気のせい? どうして赤字になってしまったのか。どうして顧客は離れていってしまったのか。そして、どのようにして再び這い上がったのか。本特集では紆余曲折を経験した企業や自治体などの道のりを詳しく紹介する。

連載第1回:衰退している熱海になぜ観光客が増えているのか

連載第2回:本記事


 「つぶれる。もうだめだ」

 周囲の誰もがそう思い、事業継続を諦めかけていた。10年ほど前、そんな危機的状況に陥っていた町工場が今、大躍進を遂げている。

 その企業は、岐阜県安八町に本社を構える浅野撚糸だ。起死回生の商品開発で生み出したタオル「エアーかおる」は累計680万枚(2019年1月時点)を販売。売れ筋商品で1枚1800円(税別)という価格にもかかわらず、飛ぶように売れている。この商品を発売した07年ごろ、2億円強に落ち込んでいた年商は、13億5000万円(18年)にまで跳ね上がった。

 どのように浅野撚糸はどん底からはい上がったのか。商品を生み出し、ブランドが羽ばたくまでの軌跡を追った。

photo 累計680万枚を販売したタオル「エアーかおる」

繊維産業「海外シフト」で仕事が激減

 「撚糸(ねんし)」とは、糸に撚り(より)をかける、つまり、ねじり合わせること。繊維から糸をつくる紡績業の工程だ。「腕によりをかける」といった言葉もここから生まれている。社名の通り、浅野撚糸の本業だ。

photo 浅野撚糸の工場

 繊維産業が盛んだった岐阜県内には、かつて400社の撚糸工場があったという。しかし、今では30社にまで減っている。衰退の大きな要因は「海外シフト」だ。

 浅野撚糸はストレッチ素材向けの糸などの開発や加工を手掛け、1990年代までは大手商社やメーカーと活発な取引をしていた。ところが、2000年代に入ると状況は一変する。撚糸の加工技術やノウハウが中国などに流出。海外工場の技術が急速に高度化し、繊維産業の工程は丸ごと海外にシフトしてしまった。

 残った仕事をほそぼそと続けていたが、それも長くは続かない――。そんなときに巡ってきたのが、「新しい糸」の開発だった。

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