倒産寸前の町工場がタオルで大逆転! ヒットの秘密は「糸」と「伝え方」累計680万枚(2/5 ページ)

» 2019年02月14日 07時30分 公開
[加納由希絵ITmedia]

 きっかけは、繊維商社から「水に溶ける糸を何かに使えないか」と、用途開発を持ちかけられたこと。その糸は細く、そのまま使うとすぐに切れてしまうため、通常の綿糸に加える形で「補強材」として使うことにした。

 4年にも及ぶ試行錯誤の結果、できたのは“膨らむ糸”だ。すでに撚りがかかっている通常の綿糸を、まずは反対方向にひねることで繊維の状態に戻す。その状態から水溶性の糸を撚り合わせていく。出来上がった糸を熱湯に入れ、水溶性の糸だけ溶かすとどうなるか。繊維の間に隙間ができる。そして、撚りを戻そうとする力が働いて、さらに糸が膨張する。

photo 一般的な綿糸(左)と「スーパーゼロ」

 このように加工した糸は、繊維の間に空洞があるため、伸び縮みしやすい。一般的な綿糸の約1.6倍のボリュームになる。この糸を「スーパーゼロ」と名付け、特許も取得した。

 スーパーゼロを使った生地は、水を通しやすい、柔らかい、乾きが早いなどといった特徴がある。それを生かして、有名ブランドの「洗えるスーツ」などに採用された。しかし、取引先の状況に左右されやすいビジネスモデルのままでは、長期的、安定的に利益を生むことは見込めない。

 「スーパーゼロを自分たちの手で売ることが必要だったのです」。常務執行役員の河合達也氏はそう振り返る。

タオルとの“運命の出会い”

 さまざまな企業を訪問し、新しい糸の売り方を模索していたころ、浅野撚糸に“運命の出会い”があった。地元金融機関のビジネスマッチングを通じて紹介されたタオルメーカー、おぼろタオル(三重県津市)だ。

 おぼろタオルも浅野撚糸と同様に、縮小していく国内繊維産業で踏ん張ってきた。共通の経験や思いがある両社は意気投合。すぐに「スーパーゼロを使ってタオルを作ってみよう」という話になった。浅野撚糸としては、「ストレッチ性のある糸を生かしたタオルができるかもしれない」と期待し、試作を依頼した。

 ところが、出来上がったタオルは、予想とは大きく異なるものだった。

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