タオルの生地は、縦糸と横糸で織った下地に、ループ状に糸を織り込む「パイル地」のものが一般的。浅野撚糸としては、下地となる縦糸と横糸にスーパーゼロを使ってもらうつもりでいた。しかし、おぼろタオルは“間違えて”、パイル部分に新しい糸を使っていた。
「すごいタオルができました!」
そう言われて見せられたのは、驚くほどふんわりとした柔らかいタオルだった。「タオルメーカーにとっては、パイルを工夫するのが自然な発想だったのでしょう。行き違いによって、偶然、柔らかいタオルができたのです」(河合氏)
「これはすごい。これなら商品になる!」と盛り上がった。ところが、いざ量産化しようとすると、いくつもの壁が立ちはだかった。
その一つが、撚りをかけた糸にスチームアイロンをかける工程にあった。なぜその工程があるかというと、撚りが戻って糸が縮れることを防ぐため、蒸気を当てて真っすぐにする必要があるからだ。
だが、スーパーゼロをスチームアイロンの機械に入れると、織り込まれている水溶性の糸が蒸気によって溶けてしまい、糸と糸がくっついてしまうのだ。その状態のままタオルを織ろうとすると、糸が切れてしまう。
糸が溶けないように、蒸気を当てる長さや温度などの調整を繰り返した。問題解決の糸口となったのは「機械への入れ方」だ。従来は糸を台車に載せて、そのままスチームアイロンに入れて蒸気を当てていた。だから蒸気が強く当たりすぎていたのだ。「段ボール箱に糸を入れて、箱に小さな穴を開けてから機械に入れてみると、糸が溶けだすのを防ぐことができました。社外の人からは『アナログなんですね』と驚かれます」(河合氏)
そのような問題を一つ一つ解決して、タオル「エアーかおる」の発売にまでこぎつけたのは07年。スーパーゼロの開発から2年が経過していた。
このころ、会社の業績はまさにどん底。会計士からは「3年後につぶれます」と宣告された。従業員を3分の1に、下請け先を半分に減らすリストラもやった。まさに背水の陣だった。
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