英国工場閉鎖を決めたホンダの狙い池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)

» 2019年02月25日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]
ホンダ唯一の欧州生産拠点、スウィンドン工場の撤退が発表された。英国政府の強い反発の中、交渉がスタートする ホンダ唯一の欧州生産拠点、スウィンドン工場の撤退が発表された。英国政府の強い反発の中、交渉がスタートする

 2月19日。ホンダは記者会見を開き、事業運営体制に関する2つの発表を行った。

 1つ目は二輪事業の組み替えだ。以下、ホンダの八郷隆弘社長によるスピーチを抜き出しながら解説する。

 「従来の日本・欧米メーカーに加え、中国やインドのメーカーとの競争がさらに激しくなっています。また、各国での環境規制強化への対応、新たな市場の拡大に向けた取組みが必要となるなど、事業環境はこれまで以上に急激に変化を続けています。そのような状況の下で、二輪事業全体でさらに一体となり、スピードを上げることで、競争力を高めていく必要があります」

 この戦略の狙いは発言にもある通り、対新興国メーカーだ。新興国のメーカーは組織が小さいため、意思決定の階層が少なく、開発速度が圧倒的に速い。開発期間はそのままコストに直結する。同じものを1年で開発できる会社と、2年かかる会社では人件費を中心としたコストが倍違う。ましてや人数が10倍多かったりすれば、コスト差は20倍に広がる。会社は大きくなればなるほど速度を上げていかないと下克上の憂き目に遭うのだ。

 商品面で見ても、速度で負けるということは価格でも負けることを意味する。もちろん規模の原理による価格低減はあるが、もはやそれらの差を量産効果でカバーできる時代ではないということなのだろう。

 そういう中で、二輪のマーケットは中国とインドとASEANで大きく伸張しており、ここで勝つためには従来の速度では、市場の競争についていけないことを説明しているのだ。

 では、どうやって速度を上げるのかと言えば、営業(Sales)・生産(Engineering)・開発(Development)・購買(Buying)各部門の連携を高め、能力を向上させることになる。その部分が以下だ。

 「そこで、従来の商品開発体制をさらに進化させ、S・E・D・Bの各部門が部門を超えて、より協調と連携ができるように、二輪事業本部と二輪R&Dセンターを組織として一体化させます。この体制により、新商品の企画構想、開発、生産立ち上げ、量産を一貫して行い、商品魅力のみならず、コスト、品質、開発スピードを高め、グローバルでの競争力を確保していきます」

 この連載の読者なら見覚えがあるだろう。これはまさにトヨタがTNGAでやっていることだ。従来の縦型組織を、製品軸ごとの小さなチームに組み替えるという意味だ。

 例えば、開発なら開発の大きな組織の中で議論と調整を積み重ねてせっかく仕様を決めても、調達とすり合わせれば事情が変わってくる。そこでまた開発に話を差し戻して練り直しになる。これがS・E・D・Bの全ての階層で何度も差し戻されれば、工数は膨大に膨れ上がる。こういう「部分最適」で精密にチューニングを済ませてから次工程で「全体最適」のバランスを取るというトーナメント方式的なやり方では無駄が多すぎる。

 なので、各部署から意思決定権を持つ最低限の人数を招集して、最初から全体最適を織り込んで事業を回すやり方に変えようというのが今回の話だ。

 決定に関わるメンバーを関連する事業全体に広げつつ、人数はむしろ最低限に減らすことで意思決定の速度を上げようとしている。

 現時点ではこれは二輪だけの取り組みだと言うが、うまく結果が出れば、やがてそれは四輪にも適用されるだろう。むしろそうしていかないとマズい。

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