それではホンダはEUマーケットを諦めるのかと言えばそんなことはない。Connected(コネクティッド)、Autonomous(自動運転)、Shared/Service(シェア/サービス)、Electric(電動化)の頭文字を取ったCASE領域で、これという技術を持たないイタリアとフランスのメーカーは向こう20年間ゆっくりシェアを下げていくだろう。ルノーが日産自動車と三菱自動車を何としてもグループに留めておきたい理由は両社の持つCASE技術が今後の浮沈を決めるからだ。
黙っていれば、イタリアとフランスメーカーが落としたシェアはフォルクスワーゲンに転がり込む。日本のメーカーに取ってこの椅子取りゲームで勝つことは重大な目標であり、課題であり、チャンスでもある。ちなみに昨年3月の決算数値で、国内メーカーを欧州シェアが大きい順に並べると以下のようになる。
マツダ16.5%(26万9000台)
日産13.1%(75万600台)
トヨタ10.8%(96万8000台)
スズキ8.7%(28万台)
ホンダ6.6%(18万4000台)
スバル3.8%(4万200台)
※ダイハツはトヨタの100%子会社のため決算資料なし。
【訂正 2019年3月6日17時52分】初出でスズキの台数が誤っておりました。28万台と訂正しました。
ホンダはEUマーケットを何とかしなくてはならない。採算性が悪いスウィンドン工場を閉鎖して、どこからEUにクルマを輸出するのか、そう考えると、環境規制が近似した中国から輸出するのが順当だ。
中国の環境規制は、フォルクスワーゲンとの蜜月がベースとなったことにより、EUの規制を範にとって作られてきた。だから規制が近似しているのは偶然でも何でもなく、そういう仕組みで作られてきたということになる。
問題はドイツと中国の関係が冷え始めていることである。EUの規制をほぼそのまま適用することで、ドイツは自社製品をローカライズの手間を掛けることなく中国で売ってこられた。しかし、これからその仕組みが逆転する可能性が高い。中国が輸出を考えたとき、一番進出が楽なのがEUなのだ。安全規制についはまだ遅れが目立つものの、こと環境規制については、中国国内規制に適合すればそのままEUで販売できる。
ホンダが中国生産車両をEUに輸出するのはその仕組みに乗ろうとしているだけだ。しかしホンダが意識しているかしていないかはともかく、今後欧中貿易戦争に発展したときにホンダは中国の側にはっきりと旗を立てたと見なされる。
欧州を舐めてはいけないのは、ホンダはF1で何度も味わってきたはずだ。彼らは都合が悪くなるとルールを変える。そうなったとき、ホンダは欧中戦争の真っ只中に巻き込まれる。
しかも、そこまでのリスクを取っても、中国法人はホンダと現地法人の合弁であり、得られる利益は半分に過ぎない。そこに危うさを感じるのだ。
筆者は本気でEUでの巻き返しを狙うなら、タイを中心としたASEAN生産、もしくはインド工場の拡大を考えた方が良かったのではないかと思う。中国での生産拡大には「EUで売れなくても中国でまだ売れるから」と保険をかけている節を感じる。
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