英国工場閉鎖を決めたホンダの狙い池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2019年02月25日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

英国工場の撤退

 さて、すでに多くの方がご存じの通り、ホンダは英国とトルコの四輪生産工場を閉鎖する。国や自治体、労働者との撤退条件の話し合いはこれからだ。

 実は、筆者は2年前の記事で英国工場は撤退すべきと書いた。その理由はホンダがここしばらく生産設備の拡張を先走らせ過ぎてきたためだ。かつて伊東孝紳前社長の下、ホンダは600万台メーカーになるという目標を立てていた。当時の生産台数400万台に対してかなりの野心的数字である。

 「工場を増やし、稼働率を上げる」ことを目的に、急激な車種の増加や開発の無理な前倒しを敢行した結果、リコールが連続発生して信頼を傷つけた。その反省によって、600万台目標の撤廃を宣言したのが、伊東前社長の後を継いだ八郷現社長である。

左はホンダの伊東孝紳前社長、右が八郷隆弘現社長 左はホンダの伊東孝紳前社長、右が八郷隆弘現社長

 それが今や550万台に届こうとしている。大きく伸張したのは中国だ。2001年に生産規模拡大のために第2工場を設立した英国スウィンドン工場は、10年前にピークを迎えた後後退を続け、ついに14年に2本あるラインを1本止めると決定した。生産能力を半減させたわけだが、それでも生産車の6割は日米への輸出であり、EUで工場投資に見合う需要を喚起することはついぞできなかった。

 世間では「ホンダの英国工場の撤退はBrexitの影響だ」とやかましいが、そもそもBrexitがなくてもスウィンドン工場はホンダにとって大きなお荷物と化していた。諦めるための引き金になった部分はあるかもしれないが、どのみちいつかはしなければいけない決断だったのだ。

 さて、さらに俯瞰(ふかん)的に見れば、問題の本質はホンダのクルマがEUでさっぱり売れないことである。18年3月の決算を見てみると、グローバル販売台数における比率は上から、北米53.3%、アジア18.6%、日本16.4%、欧州5.0%、その他6.6%である。スバルほどではないまでも北米一本足打法が目立つし、それを緩和するために中国依存が加速している。欧州で人気の高いはずのF1に投下をしてきた莫大なコストに鑑みれば、5%というシェアは実りにつながっているとは言い難い。むしろ世界一F1が評価されない米国でこれだけ売っているという皮肉な結果だ。

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