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女子向けワイン酒場「ディプント」をヒットさせたプロントの“緻密な戦略”強さを数字で読み解く(3/5 ページ)

» 2019年03月05日 05時00分 公開
[三ツ井創太郎ITmedia]

ワインに親しみやすい工夫

 ワインメニューを見てみると、さまざまなワインの味や特徴などが分かる「理想のワインが見つかるワインマップ」が掲載されています。あまりワインに詳しくない人でも、このワインマップを確認することで、自分好みのワインを探せるのです。さらにはこのワインマップの表現方法にも工夫があります。ワインの特徴が専門用語などではなく「マッチョ」「スマート」「強い」「やさしい」など、誰でも味をイメージしやすい言葉で表現されています。

 こうした訴求戦略により、ただ単に自分好みのワインを見つけられるだけではなく、複数回来店していくうちに「ワインに詳しくなれる」というメリットもあります。「ワインに興味があるけれど、わざわざ教室に通うまでではない」といった潜在的なファン層に対して、ワインの知識を気軽に学べる場としての役割も果たしていると言えます。

フード価格の工夫

 最後にフードメニューの価格戦略を見ていきます。

photo 各種資料をもとに筆者作成

 プロントは500円以下の価格帯に商品を集中させています(全体の56.4%)。一方、ディプントは500円台の価格帯のメニューを35%程度そろえ、プロントにはない1000円以上の価格帯のメニューを20%近くそろえています。

 プロントよりは少し高いがワインに合う500円台のおつまみメニューを充実させることで「気軽に来店できる専門店」として、女性の仕事帰りの“ちょい飲み需要”を上手に獲得しています。一方、1000円以上のメニューを用意することで、しっかりと食事ができる“カジュアルディナー需要”も獲得できているのです。

 最もアイテム数が多い価格帯のことを「中心価格帯」と言います。一般的には中心価格帯の6倍がそのお店の想定客単価になります。ディプントの中心価格帯は500円なので、このメニュー設計から想定される客単価は次の公式で表されます。

500円(中心価格帯)×6=3000円(想定客単価)

 ディプントはこうしたメニューアイテム戦略、価格戦略を実行したことで、当時飽和状態であった和食居酒屋との差別化を確立すると同時に、空白マーケットであった「女性が仕事帰りに気軽に立ち寄れる客単価3000円の洋風居酒屋」というポジションを獲得できました。

 こうした女性向けの業態開発を行う外食企業は他にもありますが、成功させるのは簡単ではありません。その点、ディプントでは業態開発段階からプロジェクトに女性スタッフを多く起用し「女性にとって居心地が良く、使い勝手も良いお店とは?」ということを徹底的に議論し、それら一つ一つを忠実に実現してきました。この「こだわり」こそが業態の完成度を高めるのです。実際に店内を見てみると、イタリア産のトマト缶が料理の提供台として使われていたり、メニューブックがかわいらしいイラストで構成されていたり、グラスワインのラインアップが10種類以上用意されていたりと、他のチェーンでは「コスト増」「非効率」として排除されてしまうようなこだわりを随所に盛り込んでいます。

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