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女子向けワイン酒場「ディプント」をヒットさせたプロントの“緻密な戦略”強さを数字で読み解く(5/5 ページ)

» 2019年03月05日 05時00分 公開
[三ツ井創太郎ITmedia]
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ディプントの方が生産性が高い理由

 では、なぜ坪数が狭いディプントの方が生産性が高いのか? それは客単価にも起因しています。飲食店の売上高は次の公式で表されます。

売上高=客数×客単価

 ここで両業態の客単価を見ていきます。

photo 各種資料をもとに筆者作成

 プロント業態の客単価は昼が400円、夜が1500円程度となります。昼と夜の客数構成比は立地によって大きく変わりますが、仮に昼85%、夜15%とすると昼夜を合わせた平均客単価は565円となります。計算式は(昼客単価×昼客数構成比)+(夜客単価×夜客数構成比)です。

 一方でディプントのディナー営業のみ店舗の客単価は3200円程度となります。この客単価を逆にモデル月商から割り戻すと必要な客数が見えてきます。

売上高÷客単価=客数

photo 各種資料をもとに筆者作成

 計算を行うとプロントの月間客数は約1万6000人、ディプントは2500人となります。もちろん、業態が全く違いますので一概に比較はできませんが、一つのビジネスモデルとして考えた場合にディプントはプロントの6分の1程度の客数で成立することになります。

 また、坪数が少ないため、内装費などの設備投資費用も抑えることができます。実際に両店の設備投資金額を比べてみます。

photo 各種資料をもとに筆者作成

 プロントの設備投資が3750万円であるのに対し、ディプントは3000万円と750万円も低いことが分かります。先ほど「償却前利益はディプントの方がプロントよりも3%高い」と述べましたが、設備の減価償却を加味した後の営業利益に関しても、設備投資金額が低いぶんディプントがさらに高くなります(同条件で減価償却を行った場合)。

 ここまでで、ディプントがいかに効率性を意識した店舗戦略を行っているかがお分かりになったかと思います。ディプントは収益性の追求だけではなく、ターゲットを明確化した上で、ターゲットが求めている専門店としてのマーケティング戦略を分析研究しています。さらに、その業態モデルを内装やメニュー上で緻密に表現することで戦略転換に成功したのです。

著者プロフィール

三ツ井創太郎

株式会社スリーウェルマネジメント代表取締役。大学卒業と同時に東京の飲食企業にて店長などを歴任後、業態開発、FC本部構築などを10年以上経験。その後、東証一部上場のコンサルティング会社である株式会社船井総研に入社。飲食部門のチームリーダーとして中小企業から大手上場外食チェーンまで幅広いクライアントに対して経営支援を行う。2016年に飲食店に特化したコンサルティング会社である株式会社スリーウェルマネジメント設立。代表コンサルタントとして日本全国の飲食企業に経営支援を行う傍ら、日本フードビジネス経営協会の理事長として店長、幹部育成なども行っている。著書の「飲食店経営“人の問題”を解決する33の法則(DOBOOK)」はアマゾン外食本ランキングの1位を獲得。


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