会社の数字〜注目企業を徹底分析〜

女子向けワイン酒場「ディプント」をヒットさせたプロントの“緻密な戦略”強さを数字で読み解く(4/5 ページ)

» 2019年03月05日 05時00分 公開
[三ツ井創太郎ITmedia]

収益性を高めるための戦略転換

 それでは次に、ビジネスモデルについてより詳細に分析していきましょう。プロントとディプントの収益モデルを比較していきます。

photo 各種資料をもとに筆者作成

 両業態の償却前利益を比較するとディプントの方がプロントより3%高いことが分かります。その要因をさらに細かく分析するために、飲食店において重要な経営指標である「FL比率」を見ていきます。FはFood costの頭文字で売上原価(食材費)という意味になります。LはLabor costの頭文字で人件費を意味します。つまり、FL比率とは原価率+人件費率の合計です。

photo 各種資料をもとに筆者作成

 FL比率を分析していくと、ディプントの方がプロントよりも人件費率が3%程度高いことが分かります。これは、プロントが対面式のセルフサービス業態(夜はフルサービス)であるのに対し、ディプントはフルサービスを行っていることに起因しています。その一方で、売上原価に関してはプロントよりも3%低く運営できています。これによりFL比率は両店とも60%に抑えられています。つまり、フルサービスを行うことによって増加した人件費コストを、売上原価で吸収できているのです。これは戦略的なメニュー設計がないと実現しません。ただ、トータルのFL比率を見る限りはディプントの優位性は見えてきません。そこで次に家賃比率を見ていきます。

 家賃比率はディプントが12%、ディプントが8%となっています。ディプントはプロントよりも4%も低いことが分かります。この要因は業態のモデル坪数に起因しています。両業態のフランチャイズ募集資料からモデル坪数を見ていくと、プロントのモデル坪数は40坪なのに対して、ディプントのモデル坪数は25坪となっています。つまり、ディプントの方が狭い面積で営業できるのです。当然ながら賃料は面積に比例して高くなりますので、面積が小さければ家賃を抑えることが可能です。

 一方、面積が小さくなると売り上げも少なくなるかというと、一概にはそうとは言えません。同じく両モデル月商を確認していくと、プロントは月商900万円、ディプントは同800万円となっています。一見するとディプントの方が月商は100万円ほど低くなっていますが、売り場の生産性の指標である坪効率(1カ月の売上高÷売り場面積〈坪〉)で見ていくと次のようになります。

photo 各種資料をもとに筆者作成

 プロントの坪効率(1カ月の1坪当りの売り上げ)は22万5000円であるのに対して、ディプントの坪効率は32万円であり、ディプントの方が生産性が高い業態であることが分かります。

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