トヨタ ハイブリッド特許公開の真実池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2019年04月15日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]
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トヨタはなぜ変わったのか?

 さて、なんでトヨタはそんなに善良な会社になったのか? という疑問をお持ちの方もおられるだろう。そこには日本ではあまり知られていないトヨタの危機があった。

 2010年。北米でプリウスが大規模リコールを引き起こし、トヨタに対する公聴会が開かれた。それは我々が思っていた以上に深刻だったのだ。「さしものトヨタもつぶれる」と現地法人はすくみ上がったが、いくら日本の本社に報告を上げても、真剣に受け止めてくれない。その燃え盛る温度感は豊田市までは伝わらなかった。そして手遅れになった。

 対応が後手にまわって印象を悪くしたトヨタは、公聴会で何をどう説明しても「ウソをついている」と言われ、一切信用されないという恐怖を味わった。

トヨタの豊田章男社長

 エンジン制御に問題があるかどうかが争点だったのだが、それは当然日本で設計されており、専門家は全て日本人だ。その日本人エンジニアが日本の都合のためにウソをつくと決めつけられては打つ手がない。

 結局一人の米国人女性エンジニアが「私が証言する」と自ら申し出て、証言台に立った。彼女はナビゲーションシステムのエンジニアだったと聞いている。米国人である彼女の熱弁によってトヨタは救われた。

 トヨタは日頃の行いがいかに大事かを、公聴会で嫌という程学んだのだ。常日頃から、世のため人のために尽くす姿勢を見せていなければ、土壇場で徹底的に疑われ、何も聞いてもらえない。冤罪(えんざい)を被せられて処刑されてしまうことが起こり得るのだ。

 だからトヨタは変わった。仲間を作る。地球環境に貢献する。オープンな会社になる。愛されようと努力しているということを一生懸命アピールしている。そうしたトヨタの変貌にはまだ気づいていない人が多い。

 しかし、それを知っていれば、HVの特許がなぜ無償公開されたのか、それはそんなに難しいパズルではないのだ。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


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