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» 2019年04月15日 06時30分 公開

池田直渡「週刊モータージャーナル」:トヨタ ハイブリッド特許公開の真実 (4/5)

[池田直渡,ITmedia]

競争領域の虎の子技術を無料開示する意味

 ではトヨタは、HVとPHVというこれから20年近く主流となる技術を、何のために無償開放するのだろうか? その問いに寺師副社長はこう答えた。「トヨタは、今世界のシェアのうち11〜12%くらいしか持っていません。(中略)だけど、地球環境のために普及をさせるっていうことでいくと、これをみんなが一緒になってやっていかないとダメだよねっていうこと」。つまりトヨタには、現在最も現実的な地球環境改善のためのHV/PHV技術がある。それを独占していては地球環境の改善が遅れてしまう。だからトヨタはこの特許を公開するというのだ。

トヨタが目指す姿(トヨタ発表資料より)

 しかも特許を単純に公開するだけではなく、有償とはいうものの、それをクルマにフィッティングさせるノウハウも開示するという。自動車開発はノウハウのかたまりなので、ただ特許や部品を供給されてもそれでクルマは作れない。だからトヨタは技術協力もするのだ。しかも、それを全世界で実現するためにトヨタのリソースだけでは技術支援が行き届かないことが予想されるため、外部のエンジニアリング・コンサルタント会社と協力することも視野に入れている。

 現時点で具体的な社名が挙がっているわけではないが、例えばマグナ社やリカルド社、AVL社など世界中には数多くの自動車のエンジニアリング・コンサルタントが存在する。これらの会社に技術供与して、彼らのコンサルティングで世界中の自動車メーカーにフィッティングできる環境を作り出す。そうやって可能な限り早く環境車の普及を目指したいとトヨタは言う。しかもHV/PHVだけでなく、EVやFCVについても同様の方針で普及を目指すと言うのだ。

 さて、トヨタが特許公開で何をしようとしているか? どうやって実現するか? は分かった。しかし、大事な競争領域の技術を開放してトヨタは大丈夫なのかという疑問は残る。それはどうなのだろう? 再び寺師副社長の言葉を引用する。

 「最新技術といっても、今作っている世代のものをお使いいただくっていうことですから。その世代の1つ先、2つ先っていうのは、僕らはもうやっているわけですよね。だから最新技術を公開したから、もうトヨタは競争力を失うってことじゃなくて、次も、その次もまた頑張れば良い。ある意味自分たちで自分たちを追い詰めているところもあるんですけど、(中略)トヨタだけではたぶんなんとも広がらない。みんなと一緒に協力ができるんだったら提供しましょうよっていうこと」

 この発言は(中略)以降はFCVについての発言からの引用だが、考え方は同じだ。とにかく環境を良くすることが国際社会にとって喫緊の課題であると。そうでないと、今以上にクルマは環境の敵になってしまう。EVの普及を待っている余裕はない。ならばまずはHV/PHVから始め、EVが求められるようになれば、その時はEVも、さらに求められるならFCVも同じように技術供与して普及させる。それがトヨタの考えだ。

 もちろんトヨタは慈善団体ではないから、部品からも利益を上げるし、フィッティング部分での技術供与からも利益は上げる。ぼろ儲けができるわけではないが、それは環境技術をサステイナブルに開発し続けていくために欠かせない仕組みだ。自動車メーカーに与えられた地球環境保善という使命を、経営的に存続可能な形で走らせることを実現できるならば、仲間が増えるだけなので、トヨタが危機に陥るわけではないのだ。

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